各国のアフターコロナの観光戦略(前編)
はじめに
日本でもワクチン接種が始まり、少しずつアフターコロナへの道筋が開けてきました。新型コロナウイルスの流により、観光業界は大きな打撃を受けています。では、各国の人たちは、アフターコロナの海外旅行に関してどう考えているのでしょうか? 今後の日本のインバウンドに役立つ情報をお伝えします。
各国のアフターコロナの観光戦略は、前編と後編に分けてご紹介していきます。
インバウンドを再び取り込むために
イギリスの「YouGov」は、2020年7月~8月に、世界中の25の国と地域の人々(5万人以上)を対象にアンケートを行いました。今後の旅行のトレンド(傾向)について、ヒントが得られるでしょう。
アンケートでは、「120箇所の旅行先としてどこに行きたいか」「家族や友人で話題になった観光地はどこか」などが調査されました。アンケートの回答では、今後旅行したい国として日本は第4位にランクインしています。日本は世界の中でも、好感度が高いことが分かります。(ちなみに1位カナダ、2位アイスランド、3位ノルウェー、5位デンマーク)
今はコロナ禍で海外旅行に行けなくても、状況がよくなったら日本に行ってみたいと世界の多くの人が思っているのです。これは日本のインバウンド業界にとって、グッドニュースと言えますね。
2020年11月に、ロンドンで「World Travel Market」がオンラインで開催されました。これは、毎年開催されている世界最大規模の旅行見本市です。
香川県と共同で出展した徳島県三好市の担当者は、このようにコメントしています。「英国在住のブロガーやメディア関係者から、アフターコロナの旅行形態として少人数での人混みを避けた自然の多い場所への旅行ニーズが高まるとの予測を持っており、大歩危・祖谷は今後の旅行スタイルに合った地域だとしてコロナ後に取材をしたいとの連絡を受けたという。また、日本に対しては感染者が比較的少なく安全な国という印象を持たれていると感じたそうだ」(出典:雑誌「自治体国際化フォーラム377号」)
このコメントからも分かりますが、アフターコロナの日本のインバンド需要の「傾向」が変わるかもしれません。混雑するにぎやかな有名スポットよりも、人込みを避けられる「マイナーな観光地」が脚光をあびる可能性があります。今まで外国人旅行者が訪れなかったエリアの人気が高まるかもしれません。「地方創生」のチャンスとも言えます。
また、若い世代の人の方が高齢者よりも海外旅行に積極的です。まず若い世代向けにプロモーション活動することが効果的でしょう。
オーストラリアのアフターコロナの観光動向
オーストラリアは、訪日外国人の中でも旅行支出額がトップレベルです。2019年度のデータでは、日本旅行での支出額は24万円に達しています。
日本旅行に訪れた旅行者数で、オーストラリア人は第7位です。オーストラリア人に人気の旅行先として、日本は第7位にランクインしています。今後の日本のインバウンドで、オーストラリア人は重要なお客様であることは間違いありません。
オーストラリア人の夏の休暇は、日本の冬にあたります。ですので、日本の「ウインタースポーツ」人気が高まっています。日本の「パウダースノー」を高く評価していて、宿泊施設などの「英語対応」も好評です。また、物価がオーストラリアと比べると安いこと、時差が少ないこと、このような点も旅行先としての人気を高める要素となっています。
また、日本の「花見」も好評です。今後も、花見スポットのインバウンド需要は高いでしょう。有名な花見スポットも、まだマイナーな花見スポットも、インバウンド対策を行うことが必要です。
現在はコロナ禍にあるため、オーストラリアでは「スケイテーション」が奨励されています。国外移動はもちろん国内移動も限られているので、休暇を自宅や近くの施設(ホテル・レストラン・レジャー施設など)で過ごすことが推奨されています。例えば、高級なホテルで、ちょっと違った日常を楽しんだりすることなどです。
いずれにしてもアフターコロナは、海外旅行先としての日本は確実と思われます。訪日オーストラリア人旅行者向けの、準備をおすすめします。
韓国のアフターコロナの観光動向
コロナ禍で苦境に立たされている飲食店・観光業に対し、韓国の自治体も対策を行なっています。
「クリーン江原パスポート」というスマートフォンアプリが開発されました。飲食店や観光施設に置かれている「スタンプ(Echoss Stamp)」をこのアプリに認証させると、利用者の位置・利用時間・体温などが紐付けられます。もしコロナ感染者が出た場合、このアプリによって接触者との追跡が可能です。利用者には、お店のクーポン券や商品券などのサービスが受けられます。現在25万人の人がアプリを導入し、協力しています。このシステムの開発は、非接触対面を効果的に行うこと、観光の利便性をあげることに貢献しました。
毎年、日本を訪れる韓国人旅行者は非常に大勢いるのですが、今後の動向はどうでしょうか? 自治体国際化協会が、2020年10月、ソウルで1000人を対象にアンケートを行いました。
アンケートの結果、「コロナが落ち着いたら日本に行きたいか?」という質問に「行きたい」という人が30.9%、「行きたくない」が50.7%もいることが分かりました。その理由は、「すでに旅行した地域が多く、他の国を旅行したいから」が32.7%、「旅行費用が高いから」が15.8%、ということです。今後、韓国人リピーターの獲得は厳しくなってくるかもしれません。
また、新型コロナウィルスよりも「放射能の汚染が心配」という回答が多く寄せられています。この点では、信頼の回復を図る必要がありそうです。
シンガポールやタイのアフターコロナの観光動向
シンガポール
シンガポールは「観光大国」ですが、コロナ禍では外国人の入国に厳しい対応を取っています。そのため、シンガポールの観光業界は打撃を受けています。政府は事態の回復のために、国民(18歳以上)1人あたり約8000円(100シンガポールドル)の支援を行い、国内のホテル・レジャー施設の利用を推進しました。オーストラリアと同様「ステイケーション」を押し進めることで、国内のホテル・観光スポットへの集客に成功しているようです。
日本を訪れるシンガポール人旅行客は、約7割がリピーターです。日本を好きな人たちが大勢います。このコロナ禍で日本にいけなくても、気分だけでも楽しんでもらおうと「日本食フェア」などが開催されています。日本政府観光局も、SNSを通して日本旅行のPRを引き続き行うことによって、アフターコロナに備えています。
タイ
タイも「観光立国」です。近年の観光業の伸びは大きく、観光収入は世界でもトップクラスに入っています。ですが、このコロナ禍で、外国人旅行者の入国を制限せざるを得ませんでした。そのため、観光業は深刻な影響を受けています。
タイ政府は、国内の観光業の活性化のため「タイ版Go To トラベル」ともいえる「We Travel Toghther」を行い、食事や宿泊費の援助を行っています。さらに、アフターコロナも「観光立国」として続けていけるように、「アメージングタイランド健康安全基準」というプロジェクトを立ち上げました。これは、飲食店・宿泊施設などの「衛生基準」を認定するもので、観光で訪れる人に安心して旅行を楽しんでもらおうという取り組みです。
まとめ
長引くコロナ禍にありますが、日本の観光業界もアフターコロナを見据えた戦略を練ることが必要です。今から、各国の人々の「動向」を把握しておきましょう。日本から近い国では「もう何度も行った(からいい)」という人たちが多いかもしれません。でも、まだ日本を知らない国であれば「もっとJAPANを知りたい」という人が大勢いるでしょう。各国の人々に効果的なプロモーションを行なって、今後のインバウンドに備えましょう。
アフターコロナは、日本がまた「観光大国」となることを期待したいものです。このシリーズは、後編に続きます。