訪日プロモーションの重点市場から見えてくる多言語対応への取り組み方
2020年4月1日、日本政府観光局(JNTO)は新たに重点的に訪日プロモーションを開始する世界の市場を決定し、発表しました。
コロナウイルス感染症の影響が続いており、インバウンド需要の回復までは数年かかるのではないか、という見方が一般的です。大きなダメージを受けている旅行会社、観光施設、宿泊施設、交通機関、飲食店、地方自治体の担当者のみなさんにとっては、今が正念場です。
しかし「コロナ後のインバウンド」はいずれやってきます。アフターコロナを見据えて、訪日外国人向けのサービスに携わるインバウンド担当者の方々のなかには、いまからインバウンド対応の爪を研いでいらっしゃる方も多いかもしれません。
新たな市場から訪日観光客がやってくれば、新たな言語での対応が必要となります。多言語での翻訳がますます必要となってきます。いま、インバウンドにおいて優先して取り組むべき言語は何でしょうか。JNTOの発表の内容を確認するとともに、翻訳などで取り組むべき言語は何か、ということを考えていきます。
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今後の重点市場、準重点市場と地域
JNTO(日本政府観光局)は、今回の発表でメキシコと中東地域を重点市場に追加しました。これで、ビジット・ジャパンの重点は、21市場と1地域となりました。JNTOは、これらの地域に向けて、個別に、訪日プロモーションを行い、強化していきます。
ビジット・ジャパン重点21市場及び1地域とは、中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、豪州、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、そして今回追加されたメキシコおよび中東地域(UAEやサウジアラビアを中心としたGCC加盟6ヶ国・トルコ・イスラエルを含む)です。
2019年の 国・地域別訪日旅行者数の暫定値をみると、 中東地域 から95,160人(前年比 17.6%増)、メキシコから 71,745 人(同 4.8%増)となっています。アニメや着物体験などの人気は、中東や南米にも広がっています。
JNTOは、訪日インバウンドの成長が見込まれる「準重点市場・地域」も新たに増やしました。準重点市場・地域に対しては、市場調査や試行的なプロモーションなどを行っていきます。北欧地域(スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー)およびブラジルを新たに準重点市場に追加しました。これによって、ビジット・ジャパン準重点地域は、 4 市場 1 地域:オランダ、スイス、ニュージーランド、北欧地域、ブラジルとなりました。
2019 年の訪日旅行者数の暫定値では、 北欧地域 から141,004 人(前年比 6.3%増)、ブラジル は47,575 人(同 7.6%増)となっています。
これまでの重点市場、準重点市場とその成果
残念ながら、東京オリンピック・パラリンピックは延期となりましたが、JNTOでは、2018~2020年度にかけて、訪日観光客誘致のためのプロモーションを精力的に進めてきました。
ミーティング&インセンティブ旅行は、とても有望なインバウンドの柱となっています。JNTO海外事務所が関与した平成2016年度の訪日インセンティブ旅行の件数は、対前年10.9%の伸びで、件数は1,948件、人数は131,656人の実績でした。ここ数年、アジア諸国からの訪問を中心に、堅調な伸びが継続しています。
国際会議も、インバウンドの大きな柱です。各国が活発に誘致活動を展開しており、競争がとても厳しい市場です。JNTOの発表によると、アジア太平洋地域で開催されている国際会議の件数は、年々上昇していますが、そのうち、日本での開催件数は、アジア諸国での開催が急上昇したことに伴い、1990年代以降、減少傾向となっています。
大型の国際会議は、大規模な会議施設とグローバルスタンダードに沿った宿泊施設を必要とします。JNTOの分析によると、前々大会で開催地が決定され、前大会で次の開催地のPRを行うというスケジュールが一般的です。このため、大型国際会議の誘致活動は長期にわたります。開催地の選定は、複数の候補による競合の上、理事会などで決定される方法が一般的です。
JNTOによるプロモーションでは、コアPCO(Professional Congress Organizer)とよばれる、大型の国際会議の会議運営を専門とする会社の役割に注目しています。国際学会や協会の本部と契約して、その学会や協会が主催する国際会議などの企画や準備に携わる専門会社です。JNTOによると、こうしたコアPCOが開催地を決定することが多いそうです。大型の国際会議の誘致には、コアPCOに食い込むことが重要となっています。中・小規模の国際会議の誘致も肝要です。世界で開催される国際会議の約83%が500人未満の中小規模のものとなっています。こうした小規模会議の場合は、幹部の話し合いで開催地が決定する場合も多いといいます。JNTOでは、コアPCOや各種国際会議の幹部へアピールするために、国内の都市との効果的な連携に基づく誘致活動の実施、国際会議の主体となる学術会議、学術団体との連携強化、デジタルマーケティングの拡充、見本市・セミナー・海外事務所を通じた情報収集強化に努めてきました。
日本政府が掲げた、「2020年訪⽇外国⼈旅⾏者数4000万⼈、訪⽇外国⼈旅⾏消費額8兆円」の目標達成は、コロナウィルスの影響で難しい状況とはいえ、今後に向けて、訪⽇旅⾏者全体の約8割を占めるアジア諸国だけでなく、欧⽶オーストラリアなど、訪⽇インバウンドの成⻑が⾒込まれる全世界の市場からの誘客のため、JNTOは、以下のプロモーション施策に務めています。
・アジア市場と欧米オーストラリア市場の違いを考慮した、個別のプロモーションの戦略性を向上
・アジアでは、幅広い層をターゲットにして、拡大しているリピーターのさらなる訪日の促進、多様化する個⼈旅⾏ニーズに対応する多彩な旅⾏テーマの提案、未訪日層の掘り起こしの強化
・欧⽶オーストラリアを中心に、⽇本を旅⾏先として認知・意識していない訪日無関心層に対し、デジタルマーケティング技術や外部コンサルタントを駆使して、訪⽇旅⾏への関心・意欲を効果的に高めるプロモーションを推進
・ビッグデータ分析を通じた市場動向把握・プロモーションの高度化
・富裕層や⻑期滞在者をターゲットとしたプロモーションを強化
・⾃治体との連携による多様な魅⼒の発信により、地方への誘客を促進
・ 閑散期対策など、年間を通じた訪日観光の需要の創出
多言語対応で絶対に外せない言語7選
「コロナ後」と、JNTOの重点・準重点エリアの追加を踏まえ、今すぐインバウンドにおいて翻訳の対応をすべき言語を7つ挙げます。
第1位:英語
第1位は英語です。言わずとしれた世界の共通語です。
訪日客数の上位20カ国の中で、英語を母国語または公用語とする国は8ヶ国にのぼり、2019年の合計訪日数は700万人を超えます。
第2位:中国語(簡体字)
第2位は中国語です。
中国語には、中国大陸で使われている簡体字中国語、香港で使われている香港繁体字中国語、台湾で使われている台湾繁体字中国語と、大きく分けて3種類あり、2019年の訪日中国人は約960万人でした。Webサイトやメニューなどを英語と簡体字中国語に翻訳しておけば、訪日客の実に半分以上をカバーできるわけです。
第3位:韓国語
第3位は韓国語です。
昨年、訪日韓国人は大幅に減少し、伸び率で唯一マイナスを記録しましたが、それでも約560万人の韓国人が来日しました。これまでの最高数は2018年の約700万人です。韓国との関係が改善すれば、以前のようにさらに多くの韓国人が来てくれることでしょうし、戦後最悪の日韓関係と言われるいまこそ、韓国語でのおもてなしを心がければ、政治と観光交流は別物だということを示すこともできますね!
第4位:中国語(繁体字)
第4位は繁体字中国語です。
同じ繁体字でも台湾と香港では表現や表記がかなり異なりますので、理想は両方の繁体字で準備してあげることでしょう。ですが、香港人はかなり英語が達者ですので、どちらかを選ぶとしたら台湾繁体字を優先させるとよいでしょう。
第5位:タイ語
第5位はタイ語です。
10年前は、年間の訪日タイ人はわずか10万人程度でしたが、昨年は130万人を超えるなど劇的に増加しました。背景には、日本政府によるビザ緩和策や、民間による地道な訪日プロモーションの成果があり、今後もまだまだ伸びていくと思われます。
第6位:ベトナム語
第6位は、ベトナム語です。戦略的なビザ緩和策の対象5ヶ国に含まれており、その施策が実って順調に訪日客数を伸ばしています。東南アジア屈指の親日国で、2019年の伸び率ナンバーワンでした。
また、観光客以外にも、技能研修生や留学生として来日するベトナム人も増えており、今後もっとも期待できる国のひとつだと思います。
第7位:スペイン語
メキシコが重点地域に加わり、また、同じく重点地域に入っている北米にはスペイン語ネイティブが多いためのランクインです。
まとめ・今取り組むべき課題は?
2020年4月の訪日外国人は、前年同月比99.9%減となりました。危機的な状況が続いていますが、この数年のインバウンド需要で生じてきた「ゆがみ」を矯正する絶好のタイミングともいえます。代表的な例として、観光客が殺到してしまう「オーバーツーリズム」問題があります。
こうした状況を改善する取り組みをスタートさせるのは、時間にゆとりがある今が最適といえるでしょう。
コロナウイルスが克服されたとき、これまで以上に衛生面での対応や清潔感が求められます。その点で、日本は清潔・安全・親切で世界の観光客を十分に魅了することができます。さらに、日本の旅行会社、観光施設、宿泊施設、交通機関、飲食店、地方自治体のみなさんが、多言語によるおもてなしを身につければ、準備は万全です。インバウンド担当者のみなさん、今が正念場です。ここでコロナに負けず、世界のお客さまを迎える準備を続けていきましょう!