ムスリムフレンドリー対応事例31選!飲食/ホテル/交通/商業施設
マレーシアやインドネシアといったイスラム圏から日本を訪れるムスリムたちの数は年々増えています。このようなムスリムの皆さんの信仰やライフスタイルに理解を示し、ムスリムが安心して日本を旅行できる環境作りを目指すことを「ムスリム・フレンドリー」といいます。日本では2013年頃から使われるようになりました。
インバウンド関連施設におけるムスリム対応で押さえておきたい主なポイントには、以下が挙げられます。
① 礼拝施設や清浄(ウドゥ用)設備の設置
② ハラル認証済み、またはムスリムフレンドリーメニューを提供する飲食店の設置
③ ムスリムが快適に過ごせる環境の提供
④ 上記に関する適切な情報提供
このコラムでは、「ムスリムフレンドリー最前線」と題して、国内のサービス提供者が具体的にどのようにムスリムフレンドリーな対応を進めているのか、具体的な事例をご紹介いたします。第1回目は「インバウンド関連施設編」です。
コンテンツ一覧
交通機関のムスリムフレンドリー受け入れ対応事例
空港
主に各空港の国際線ターミナルでムスリム対応の強化が進んでいます。一例を見てみましょう。
東京国際空港(羽田空港)
羽田空港の国際線旅客ターミナルビルの3階ロビーには「祈祷室」が2部屋設置されており、無料で利用可能です。室内には礼拝前に身体を清めるための清浄施設が設置されています。 詳細は、羽田空港国際旅客ターミナルのWebページで参照できます。日本語、英語、中国語、韓国語で情報が提供されています。英語の情報はこちらで参照できます。 |
羽田空港内には、上記に加えて以下のハラル対応またはムスリムフレンドリーなレストランや土産物店があります。
ミセスイスタンブール【トルコ料理レストラン】 場所:第2ターミナル3階、アッパーデッキトウキョウ内 営業時間:7:00~20:30(L.O.20:00) 電話番号:03-5756-6183 2014年にハラル認証を取得。ムスリム向けのハラル弁当「ハラルsora弁」を提供。 | |
けばぶ工房(KEBAB STAND)【ケバブテイクアウト専門】 場所:国際線旅客ターミナル4階、江戸小路 営業時間:7:00~22:00 電話番号:03-5756-6183 ミセスイスタンブールがプロデュースするケバブのテイクアウト専門店。ハラル認証を取得済み。ベジタリアンメニューもある。 | |
ドンピエールジェット【カレーレストラン】 場所:国際線旅客ターミナル3階、112~114番ゲート 営業時間:24時間営業 電話番号:03-6428-0026 元々はフランス料理店だが、羽田空港ではカレー専門店として営業している。ハラル認証を取得済み。ベジタリアンメニューもある。 | |
茶寮 伊藤園【カフェ・軽食】 場所:国際線旅客ターミナル4階、江戸小路 営業時間:24時間営業 電話番号:03-6428-0055 備考:お茶や甘味、軽食を提供するカフェ。ハラル認証を取得してはいないものの、カステラの成分が、卵、砂糖、小麦粉、蜂蜜、水飴ということで、ムスリムでも安心して食べることができるとムスリム系メディアで紹介されている。 | |
EDO食賓館【土産物店】 場所:国際線旅客ターミナル4階、江戸小路 営業時間:6:30~22:00 電話番号:03-6428-0426 ハラルな土産物の販売コーナーがある。 | |
LAWSON【コンビニエンスストア】 場所:1階、エントランスプラザ 営業時間:24時間営業 電話番号:03-5708-0108 ハラルな土産物の販売コーナーがある。 |
羽田空港以外にも、成田国際空港、関西国際空港、中部国際空港、新千歳国際空港、福岡空港、那覇空港、仙台空港、富士山静岡空港などの国際線ロビーには、礼拝室やハラル対応の飲食店などが設置されています。
航空会社
日本の代表的な航空会社である日本航空(JAL)と全日空(ANA)の両社とも、国際線の機内食としてハラル認証機内食(イスラム教宗教食:MOML)を提供しています。日系以外も含めた各航空会社の特別食対応状況は、こちらの資料が参考になります。
「MOML」は、ハラル認証を受けた機内食工場で製造されます。工場では、以下の3項目が厳守されています。
① 食材すべてが、サプライチェーンを含めてハラル認証を取得していること。
② 調理する施設はハラル認証を受けており、搭載、食器の洗浄、調理の各段階で、ハラル認証を受けたルールに則り作業が行われること。
③ 調理を行うシェフをはじめとして、従業員がハラル食を作るための環境維持を行い、また定期的に訓練を受けていること。また、工場内にハラル委員会などの専用協議機関を設置できていること。これらは、ハラル認証機関およびカスタマーである航空会社による定期的な審査が行われること。
「MOML」を利用する場合は、以下の手続きを踏む必要があります。
「機内特別食」は、申込み受付期限までにJALホームページ、電話、メールで申し込む必要がある。 ● JALホームページ:便出発25時間前まで ● 電話・メール:便出発24時間前まで 詳細はこちらで確認可能。 | |
「特別機内食」は、申込み受付期限までにANAウェブサイトまたは電話で、いずれも便出発24時間前までに申し込む必要がある。 詳細はこちらで確認可能。 |
機内食ケータリング会社
どのケータリング会社もハラル食製造がメインではなく、ノンハラル食と混在して製造しています。施設の関係などで、キッチンなどの製造ラインや洗浄ラインをハラル食専用に分けることができない場合は、毎回使用前にアルコール成分の入っていない特殊な洗剤で洗浄することで、ハラルの要件を満たすといった手間をかけているようです。成田国際空港にあるケータリング会社の対応状況を具体的に示します。
株式会社ティーエフケー
所在地 | 千葉県成田市成田国際空港内 |
主な取り扱い航空会社 | エティハド航空、ガルーダインドネシア航空、マレーシア航空、スカンジナビア航空、JAL |
ハラル食を主に提供する航空会社 | エティハド航空、ガルーダインドネシア航空、マレーシア航空 |
一日に提供するハラル食数 | 6,000食 |
食材 | 日本のハラル認証を受けた食材、または輸入ハラル食材 |
搬入ライン | 専用ラインなし |
洗浄ライン | なし(使用前に専用洗剤を使用して洗浄) |
サプライチェーン | 商社などを利用 |
専用キッチン | あり |
冷蔵庫・冷凍庫 | あり |
工場内での一般食との分別 | タグなどで色分けして分類 |
搬出ライン | なし |
ハラル委員会 | 月1回会合 |
鉄道
鉄道各社もムスリム対応を進めていますが、地域や路線によって大きな差があるようです。現状では、ターミナル駅や観光地の大型駅、観光案内所など、ムスリム訪日客の来訪が多く見込まれる場所に礼拝室や清浄設備を設置したり、駅ナカカフェでのハラル商品販売や一部レストランでのムスリムフレンドリーメニューの提供などにとどまります。いくつかの例を見てみましょう。
東京駅:ターミナル駅構内に礼拝室を設置、「ムスリムフレンドリーメニュー」の提供
礼拝室 場所:丸の内北口ドーム JR東日本訪日旅行センター内 利用可能時間:8:30~19:00(土日祝17時まで)年中無休 2名ほどがお祈りできる広さで、簡易的な清浄施設も設置されている。メッカの位置を示すキブラが床に表示されている。普段は施錠されているため、使用する際にはインタフォーンで係員に知らせる。 | |
自然食レストラン「T’sたんたん」 場所:東京駅 京葉ストリート内 営業時間:7:00~23:00(L.O.22:30)不定休 電話番号:03-3218-8040 肉・魚介類・乳製品・卵を一切使わない担々麺など、ムスリム訪日客も利用しやすいムスリムフレンドリーメニューを提供している。ただし、ハラル認証店舗ではない。 |
山手線主要駅:ハラル商品の販売拡大
山手線主要駅でのハラル商品の販売拡大 場所:東京駅、新宿駅、池袋駅、上野駅、品川駅、秋葉原駅、日暮里駅、大塚駅にあるベックスコーヒーショップなどの駅ナカカフェ メニューの一部としてハラル認証取得済みのバウムクーヘンを提供。 |
東武鉄道:東武日光駅に祈祷室を設置、ムスリム旅行者向けの観光マップの発行とWebサイトでの情報提供、東武グループホテルにおいてムスリム向けメニューを提供
東武日光駅構内に祈祷室を設置 場所:東武日光駅2階 利用可能時間:9:00~16:30 年中無休 男女各1室。各部屋に温水機能付き清浄施設を設置。利用する際は、同駅1階の「東武日光駅ツーリストセンター」に知らせる。 | |
ムスリム旅行者向けの観光マップ発行とWebサイトの開設 日光・鬼怒川エリアのムスリム向け施設(祈祷室を設置している施設や、ムスリム向けメニューを提供する飲食店など計15ヶ所)を掲載した観光マップを発行。また、同様の内容を「TOBU JAPAN TRIP」のWebサイトでも紹介。 TOBU JAPAN TRIPのムスリム向けページ(英語) ムスリム旅行者向けの観光マップ(英語) | |
東武グループのホテル(日光金谷ホテル/中禅寺金谷ホテル)においてムスリム向けメニューを提供 朝食および夕食にて、ノンポーク・ノンアルコール・ハラルミート・ハラル対応調味料を使用したメニューを提供(ただしハラル認証は受けていない)。宿泊日当日から数えて5日前までに予約する必要がある。 |
デパート・複合施設のムスリムフレンドリー受け入れ対応事例
日本各地の大型デパート、複合施設、ショッピングモール、展示会場などの施設で、ムスリムフレンドリーな対応が強化されています。では実際の事例を見ていきましょう。
大阪ステーションシティ | |
東京ミッドタウン 場所:東京都港区赤坂9-7-1 施設概要:東京赤坂にある大規模な複合施設 ムスリム対応:礼拝スペースの設置、一部店舗でのムスリムフレンドリーメニューの提供 礼拝スペースの場所:商業棟「ガレリア」の1階に女性用、3階に男性用を設置 利用時間:11:00~21:00 礼拝スペースの概要:清浄施設は付属していない。 | |
御殿場プレミアムアウトレット | |
新宿高島屋デパート 場所:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-2 ムスリム対応:礼拝スペースの設置 礼拝スペースの場所:11階 利用時間:10:00~20:00(平日・日曜日)、10:00~20:30(金・土曜日) 礼拝スペースの概要:清浄施設も設置されている。 |
宿泊施設のムスリムフレンドリー受け入れ対応事例
宿泊施設のムスリム対応が進めば、ムスリム訪日客の皆さんの利便性は大幅に向上します。宿泊施設が押さえておきたいムスリム対応のポイントとしては、冒頭に述べた4つの点に加えて、天井や引き出しの中などに、イスラムの礼拝をする方角を示す「キブラマーク」を貼っておくことや、例は維持に必要となる礼拝マットの貸し出しなどが挙げられます。また、飲食施設を持つホテルの場合、特に朝食をホテル内で摂ることができれば、ムスリム訪日客にとって時間や体力を効率よく用いて旅行を楽しむことができるわけです。
食事に関するもっとも望ましい対応は、食材も含めてハラル(イスラム法で合法とされるもの)とハラム(イスラム法で非合法とされるもの)が混じることがないよう、ハラル専用の厨房を作り、専任の調理人を置くことですが、厳密なハラル対応は難しいのが現状です。それで、セカンドベストということで、「ムスリムフレンドリー」を目指すホテル・飲食店が多いようです。具体的には、以下の諸点を満たすようにします。
① ハラルメニューを提供する:ハラルの材料や調味料を使って調理し、その調理に使う調理器具や盛り付ける器もハラル専用のものを使用します。
② ハラルメニューを離して置く:ハラルメニューをテーブルに置くときに、ハラルメニューとハラムのメニューとは場所を離します。
③ ハラルメニュー用の食器を準備する:個々に使用するお皿やカトラリーは、ムスリム用のものを用意します。色分けして区別するなどすると、安心感与えることができます。
④ 席の配置に注意する:中東からのムスリムゲストの場合、家族以外の男女が同じテーブルにつくことはできません。それで、女性だけの席を準備したり、その家族だけ他のお客様と区画を分けて案内するなどの配慮が必要です。
では、いくつかの具体例を見てみましょう。
リッチモンドホテル プレミア浅草インターナショナル | |
ルスツリゾートホテル 住所:北海道虻田郡留寿都村字泉川13番地 電話番号:0136-46-3111 ムスリム対応: ● 加森観光という札幌のリゾート運営会社が運営するホテル。2012年10月にリゾートホテルとして全国初の「ローカルハラル」を取得。 ● 礼拝場所として会議室などを提供し、床に礼拝用のマットを用意。水回りには手足を洗うために履き替えるスリッパを準備。キブラコンパスも貸し出す。 ● 和食レストラン「雪花亭」の厨房の奥に、ハラルのための厨房を別途用意。冷蔵庫や冷凍庫、フォークやナイフ、まな板、食器などすべてハラル料理専用のものを使用。 ● ハラルの概念を守った食材を使いながら、天ぷらやお寿司など基本的には和食を提供している。 | |
シャリアホテル富士山 | |
里湯昔話 雄山荘(旅館) 住所:滋賀県大津市雄琴1-9-28 電話番号:077-578-1144 ムスリム対応: ● 2014年にハラル認証を取得。調理器具や食器などを区別し、認証に沿った食材を使った純和風懐石料理の提供を開始。 ● 各部屋と宴会場に礼拝マットを敷き、足を洗う場所やキブラコンパスを準備。 |
飲食店のムスリムフレンドリー受け入れ対応事例
飲食店が厳密にムスリム対応することは、なかなかハードルが高いことでしょう。例えば、NPO法人「日本ハラル協会」が公表している「飲食店におけるムスリム対応ガイドライン」を見ると、数多くの要求事項が列挙されており、すべての基準を満たすことは簡単ではありません。とはいえ、同ガイドラインを見ると「記載にある要求事項を完璧にクリアすることや、ハラル認証を取得することが必ずしも重要ではなく、顧客が安心して心地よく施設を利用できるようにすることが重要」とも述べられています。この指針に沿った「ムスリムフレンドリー」な飲食店は少しずつ増えています。
東京都内を中心に、実際の事例をいくつか見ていきましょう。
浅草 すし賢 住所:東京都台東区浅草2-11-4 営業時間:11:30~23:30(平日)、11:30~22:00(日・祝日) 電話番号:050-3184-0547 日本で最初のハラル寿司屋。料理に使われるすべての材料(醤油、酢、米、ガリ、肉など)にハラルのものを使用している。 | |
新横浜ラーメン博物館 住所:神奈川県横浜市港北区新横浜2-14-21 営業時間:11:00~21:30(平日)、10:30~21:30(日・祝日) 電話番号:045-471-0503 ● 地下1階に礼拝所、清浄施設を設置。キブラも備えている。 ● ハラル対応ではないが、以下のお店でムスリムフレンドリーなベジタブルラーメンを食べることができる。 山形赤湯 龍上海本店、YUJI RAMEN、無垢-muku-ツヴァイテ、熊本 こむらさき | |
東京穆斯林飯店(トーキョームスリムハンテン) 住所:東京都墨田区江東橋2-18-6 営業時間:11:00〜15:00、15:00〜23:00(L.O.22:30) 電話番号:03-5669-0934 中華料理店。メニューはすべてハラル対応。こじんまりとしたムスリム用の礼拝スペースも設置。裏メニューとしてアルコールも提供している。 | |
炭やき屋 西麻布 住所:東京都港区西麻布3-20-16 営業時間:11:30〜15:00(L.O.14:30)、17:00〜23:00 日曜定休 電話番号:03-3403-5397 神戸牛と飛騨牛のハラル焼き肉を味わうことができるお店。 | |
SEKAI CAFE -Oshiage 押上- 住所:東京都墨田区業平2-16-8 営業時間:10:00〜21:00(L.O.20:00)第二火曜日定休 電話番号:03-6284-1760 ムスリムやベジタリアン、アレルギーに配慮したメニューがあるカフェレストラン。2階には礼拝や授乳に使用できる多目的スペースがある。 | |
江戸料理 西麻布ひで 住所:東京都港区西麻布2-25-24 西麻布FTビル3階 営業時間:8:00~24:00分(L.O.22:00)日曜定休 電話番号:03-5467-6943 2017年3月31日にオープンした日本料理店。日本エミレーツハラルセンターからハラル認定を受ける。現在のところ使用している肉類は証明書付きのアメリカ産だが、将来はハラル和牛を使った料理を検討しているとのこと。ハラル認証店だがアルコールもそろっている。 |
マレーシアやインドネシアなどのイスラム圏からの訪日旅行者に対するアンケート調査によると、日本の食事対応の充実度や、礼拝スペースの充実度などは、諸外国と比較してもまだまだ低いのが現状です。ムスリムフレンドリーな取り組みをいっそう推進させることで、訪日ムスリムが安心して旅行できるような環境作りがさらに必要とされています。
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