ムスリムフレンドリー学校や企業、教育機関の受け入れ事例とは

インドネシア,マレーシア,ムスリム

独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が毎年実施している「外国人留学生在籍状況調査」という調査報告書があります。平成29年度の調査結果によると、平成29年6月1日時点の留学生の総数は267,042人でした。ここ数年、毎年この数は10%前後ずつ増加しており、この中には数多くのムスリムの学生たちが含まれています(ちなみに、平成29年度のインドネシア人留学生は5,495人、マレーシア人留学生は2,945人でした)。日本国政府は2020年までに年間30万人の留学生を誘致する目標を掲げていますが、目標に向けて順調に推移しており、今後さらに増加することが予想されます。

出典:日本学生支援機構「平成29年度外国人留学生在籍状況調査」

国内の外国人労働者数はどうでしょうか?内閣府がまとめた「外国人労働力について 平成30年2月20日」という資料によると、やはり右肩上がりで増加しており、2017年10月時点で127万8,670人になりました。この中には、数多くのムスリムの労働者が含まれています。

出典:内閣府「外国人労働力について 平成30年2月20日」

こうした背景を踏まえて、大学や企業におけるムスリムフレンドリー対応が近年強化されています。特に力を入れているのは、以下のようなポイントです。

学生食堂社員食堂ハラール昼食を提供、調理施設などのハラール対応・ムスリムフレンドリー対応、メニューを選択できるようピクトグラムを使用して原材料を分かりやすく表示
② 既存施設を礼拝室に改築したり、礼拝の前に洗浄(ウドゥ)用設備を設置したりしている。
③ ムスリム特有の事情(礼拝断食月の対応)などの事情に対する個別の配慮。
④ 適切な情報提供啓蒙(教職員や学生、社員が理解を深めるための冊子の作成と配布など)。
地域との交流の推進。

それでは、具体例を見ていきましょう。

大学のムスリムフレンドリー受け入れ対応事例



大学名:金沢大学
ムスリム対応事例:
● 大学構内に特定の宗教に限定しない礼拝室を設置し、留学生担当教員の監督の下、留学生組織が管理・運営している。ウドゥ用の正常設備も男女それぞれのトイレ内に設置。礼拝室を特定の宗教の利用に限定しないために、キブラはあえて設置していない。
● ムスリム留学生の多い「南福利食堂」で、昼食だけでなく夕食時間帯にもハラール食を提供するとともに、利用要領を作成して配布している。
● メニューの食材中のアレルゲンをピクトグラムで表示している。この中には豚肉なども含まれていることから、結果としてムスリムがメニューを選択する際に参考になっている。

大学名:名古屋経済大学
ムスリム対応事例:
● 国際交流室がある5号館6階の5601室を礼拝室とした。室内には礼拝マットが敷かれ、キブラが柱に貼ってある。ただし、ウドゥ専用の設備はない。
● 学生全体に対するムスリム留学生の割合がまだ低いため、学食をハラール対応させるのはまだ難しいと判断。それで、大学構内で昼食時に移動販売を行うハラール対応のキッチンカーを活用し、週1回ハラールメニュー(ケバブサンドとトルコアイス)を提供する。
大学名:大阪大学
ムスリム対応事例:
● 学食でかなり高いレベルのハラル対応を実施しており、ハラルメニューの種類も豊富。豊中キャンパスの図書館下食堂と福利会館3階食堂、吹田キャンパスのファミール、箕面キャンパスのレインボーで取り扱っている。
大学名:立命館アジア太平洋大学(APU)
ムスリム対応事例:
● 2016年に構内の学生食堂が「日本アジアハラール協会」による「ハラール認証」を取得した。APUの学食は、イスラム教圏からの留学生をはじめ1日約3,000人が利用する。ハラール認証の飲食施設として国内最大規模。

上記以外にも数多くの大学生協でハラルフードが提供されています。2017年度のメニューとリストはこちらをご参照ください。

企業のムスリムフレンドリー受け入れ対応事例


企業名:ヤンマー株式会社
場所:大阪市北区
事業内容:日本を代表する総合産業機械メーカー。産業用ディーゼルエンジンを事業の柱として、さまざまな市場へ商品・サービス・ノウハウを融合したトータルソリューションを提供している。本社サイトで働くムスリム社員が2016年5月時点で4人。
ムスリム対応事例:
● 本社社員食堂「プレミアムマルシェカフェ」においてムスリムフレンドリーメニューを提供。季節ごとに日替わりで16種類を提供し、年間で64種類のメニューをそろえるという充実のラインナップ。
● 食堂と同じ12階に公式の礼拝スペースを設置。ウドゥは多目的トイレで行う。

企業名:YKK株式会社黒部事務所
場所:富山県黒部市
事業内容:ファスナーやボタンなどのファスニング用品の製造・販売、窓やサッシ・ドアなどのアルミや樹脂ベースの商品の開発・販売など。グローバルに事業を展開しており、5,000人の従業員のうち外国人が約20人、そのうちイスラム圏からの従業員が約10人(平成29年4月現在)
ムスリム対応事例:
● ハラール認証を取得した社員食堂で、昼食にハラール食を1種類、ベジタリアン食を1種類日替わりで提供。厨房や調理器具、食器に至るまですべてハラール専用のものを使用。
● 断食月にはランチをハラール弁当に変更して提供するなど、断食月への配慮を示す。
● 外国籍社員の入居施設に隣接して、ハラール認証を取得した多国籍レストランを開設。ムスリムの夕食にも配慮。
企業名:はごろもフーズ株式会社
場所:静岡県静岡市
事業内容:シーチキン缶詰、デザート缶詰、パスタソース缶詰などの製造、販売。全体で40人ほどのインドネシア人技能研修生が働いている(2017年4月1日現在)。
ムスリム対応事例:
● 工場にあった休憩室を礼拝室に、浴室をシャワー室にそれぞれ改装し、正式な礼拝スペースとウドゥ用設備を設置。

企業名:トヨタ鉄工株式会社
場所:愛知県豊田市
事業内容:自動車部品の製造、家庭用機器部品の製造を行う会社。イスラム圏からの従業員が10人技能実習生として在籍しているが、滞在の長期化に伴い勤務環境における宗教的な配慮が必要と判断した。
ムスリム対応事例:
● 本社工場内に専用の礼拝場所を設置した。礼拝場所であることを示す表示を貼り出し、パーテーションで仕切ることで人目に触れずに礼拝可能とした。広さは約6畳ほどで、床には絨毯を敷いた。また、すぐ近くにウドゥ用設備を設置。
● 本社食堂の昼食メニューに、豚肉・牛肉の使用状況を英語と絵で表示し、ムスリムがメニューを選択する際の情報を提供することとした。また、メニューとして豚肉などを使用しないサラダバーを提供することとした。

企業名:楽天株式会社
場所:東京都世田谷区
事業内容:さまざまなインターネットサービスを提供するIT企業。100名ほどのムスリム社員が在籍している。
ムスリム対応事例:
● カフェテリアでのハラールコーナーの設置やハラールメニューの提供。
● 祈祷室とウドゥ用の洗い場を設置。
● 社内に設立された「ムスリム・コミュニティー」が中心となり、イスラム文化の紹介を趣旨とした懇親会を開催するなどの、相互理解推進も行われている。

中部地区のムスリムフレンドリー対応について、総務省中部管区行政評価局がまとめた「宗教的配慮を要する外国人の受け入れ環境整備などに関する調査-ムスリムを中心として-(平成29年12月)」は、中部地区の学校や企業の具体的な取り組みが紹介されており、大変参考になります。

日本の労働人口が約6,600万人で、そのうち128万人が外国人労働者と、労働力の50人に1人を外国人が担う状況ですが、最近の報道によるとさらに外国人労働力を増やす方向で法改正が行われるとのこと。数多くのムスリムを含む多くの外国人が、これからも日本に中・長期的に滞在することになります。教育現場や企業でのムスリムフレンドリー対応のニーズは、引き続き高まっていくことでしょう。

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