2026年9月、東京ビッグサイトにて「ツーリズムEXPOジャパン2026」が開催されます。今年のテーマは「進化する旅のカタチ」(The Changing Nature of Travel)。約70ヵ国・地域と国内46都道府県から出展者が集まり、来場者目標は18万人という世界最大級の観光イベントです。
参考:「ツーリズムEXPOジャパン2026」 開催 テーマは「進化する旅のカタチ」(PR TIMES)
コロナ禍を経て、人々の旅に対する価値観は大きく変化しました。体験型観光、サステナブルツーリズム、ワーケーション——旅の形態が多様化する中で、観光産業に求められるコミュニケーションのあり方も進化を続けています。
本記事では、ツーリズムEXPOジャパン2026の開催概要を紹介しながら、グローバル観光時代における「言語」と「異文化理解」の重要性について、翻訳・ローカライゼーションの専門家の視点から考察します。
ツーリズムEXPOジャパンとは——官民一体で進める観光立国の象徴
ツーリズムEXPOジャパンは、公益社団法人日本観光振興協会、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、日本政府観光局(JNTO)の3者が主催する総合観光イベントです。2014年に誕生し、今年で12回目を迎えます。
このイベントの特徴は、業界向けの展示商談会と一般消費者向けのPRを融合している点にあります。9月24日・25日は業界・プレス向け、26日・27日は一般公開日として、幅広い層に「旅の魅力」を届ける構成となっています。
2026年開催の注目ポイント
今回の開催では、いくつかの新しい試みが注目を集めています。
まず、初のオフィシャルキャラクター「ハシビリョコウ」の誕生です。「世界一動かない鳥」として知られるハシビロコウをモデルにしたこのキャラクターは、静かに立ち止まり遠くを見据える佇まいを「旅に期待感や高揚感を持つ旅人の視線」と重ねたものとされています。幅広い年齢層に受け入れられる普遍的なデザインは、国境を越えたコミュニケーションツールとしての可能性も感じさせます。
また、スペシャルインフルエンサーとして旅行系YouTuberの西園寺さん(登録者数87万人超)とZAKIさん(登録者数29万人超)を起用。会場の様子をYouTubeで配信することで、若年層への訴求と、来場できない人々への情報発信を強化する狙いがあります。
ブースは約1,300小間以上の申し込みで満床となっており、世界中の観光地が競うように魅力を発信する場となります。同時開催の「VISIT JAPAN トラベル&MICEマート2026」では、インバウンド誘致に向けたBtoB商談も活発に行われる予定です。
「進化する旅のカタチ」が示す、観光コミュニケーションの転換点
今回のテーマ「進化する旅のカタチ」は、単なるキャッチコピーではありません。旅行者の価値観が多様化し、画一的な観光情報では響かなくなった現実を反映しています。
「マス」から「パーソナル」へ
かつての観光プロモーションは、有名観光地の美しい写真と定番のキャッチコピーがあれば成立しました。しかし現在、旅行者が求めるのは「自分だけの体験」です。
観光庁が公表している「訪日外国人消費動向調査」の2024年年間値によると、訪日外国人の旅行消費額は8兆1,395億円(推計)に達し、過去最高を更新しました。消費単価も上昇傾向にあり、「量」から「質」への転換が進んでいることがうかがえます。
参考:観光庁「訪日外国人消費動向調査」2024年年間値(2025年3月19日発表)
こうした変化は、観光事業者のコミュニケーション戦略にも影響を与えています。「誰にでも同じ情報を届ける」時代から、「相手の文化・言語・価値観に合わせて伝える」時代へ。この転換こそが、「進化する旅のカタチ」の本質ではないでしょうか。
70ヵ国・地域が集う場で問われる「伝える力」
ツーリズムEXPOジャパンには、世界約70ヵ国・地域から出展者が参加します。これは、同じ会場内に70以上の異なる言語・文化・商習慣が共存することを意味します。
出展者にとっては、自国・自地域の魅力を「日本人に伝える」だけでなく、「他国の出展者・来場者にも伝える」機会でもあります。逆に日本の自治体や観光事業者は、海外からの出展者・バイヤーに対して、自分たちの観光資源を英語や中国語で効果的にアピールする必要があります。
ここで重要になるのが、単なる「翻訳」ではなく「ローカライゼーション」という視点です。
観光産業における「ローカライゼーション」の重要性
ローカライゼーションとは、翻訳を超えて、対象となる市場の文化・習慣・価値観に合わせてコンテンツを最適化するプロセスです。観光産業では、この考え方が特に重要になります。
「おもてなし」は翻訳できるか
日本の観光の強みとしてよく挙げられる「おもてなし」。しかし、この言葉を英語でどう表現するかは、翻訳者にとって永遠の課題です。
「Hospitality」と訳されることが多いですが、「おもてなし」が持つ「相手の期待を先読みして、言われる前に行動する」というニュアンスは、この単語だけでは十分に伝わりません。文化圏によっては、「過剰なサービス」「プライバシーへの介入」と受け取られる可能性すらあります。
だからこそ、「言葉を訳す」のではなく「意図を伝える」というローカライゼーションの発想が必要になります。「おもてなし」を体験として伝えるなら、具体的なエピソードや事例を交えて説明する。ビジュアルコンテンツと組み合わせて、言葉に頼りすぎない表現を工夫する。こうした多角的なアプローチが求められます。
多言語対応は「コスト」ではなく「投資」
観光事業者の中には、多言語対応を「コスト」と捉え、最小限に抑えようとする傾向があります。しかし、グローバル市場で競争力を持つためには、多言語対応は「投資」として戦略的に取り組むべき領域です。
たとえば、公式サイトの多言語化一つをとっても、単に翻訳するだけでは不十分です。検索エンジン最適化(SEO)を考慮した各言語でのキーワード選定、現地の旅行者が使う表現やプラットフォームへの対応、決済手段や問い合わせ方法の現地化——こうした要素を総合的に設計することで、初めて「伝わる」多言語サイトが完成します。
ツーリズムEXPOジャパンのような国際イベントは、こうした多言語コミュニケーションの重要性を再認識する絶好の機会といえるでしょう。
インバウンド時代の「言語戦略」——現場で求められる3つの視点
観光産業における言語対応は、単なる翻訳作業にとどまりません。戦略的な視点を持って取り組むことで、顧客体験の向上と業務効率化の両立が可能になります。
① 顧客接点ごとの優先順位付け
すべてのコンテンツを完璧に多言語化することは、現実的ではありません。重要なのは、顧客体験に最も影響を与える接点を特定し、優先的に対応することです。
観光施設であれば、予約サイト、施設案内、安全に関する注意事項、緊急時の対応マニュアルなどが優先度の高い項目となります。一方、社内向けの細かい運営マニュアルなどは、必要に応じて段階的に対応すれば十分です。
② 機械翻訳と人間翻訳の使い分け
近年、機械翻訳の精度は飛躍的に向上しています。しかし、すべてを機械翻訳に任せることには依然としてリスクが伴います。
定型的な案内文や、内部コミュニケーション用の文書であれば、機械翻訳で十分対応できる場合があります。一方、ブランドイメージに関わるマーケティングコンテンツ、法的な責任が生じる契約書や安全情報、文化的な配慮が必要なホスピタリティ関連の表現などは、専門家による翻訳・監修が不可欠です。
③ 異文化理解に基づくコミュニケーション設計
言語対応の最終目標は、「言葉が通じる」ことではなく「意図が伝わる」ことです。そのためには、対象となる文化圏の価値観やコミュニケーションスタイルを理解した上で、表現を設計する必要があります。
たとえば、同じ「丁寧な表現」でも、日本語では婉曲的な言い回しが好まれる一方、英語圏では明確で直接的な表現が好まれる傾向があります。こうした違いを理解せずに翻訳すると、「回りくどい」「何が言いたいかわからない」という印象を与えてしまうこともあります。
アットグローバルでは、翻訳・ローカライゼーションサービスに加え、異文化理解を深めるCQ(Cultural Intelligence)研修も提供しています。言語スキルと異文化対応力の両面から、組織のグローバルコミュニケーション力を高めるお手伝いをしています。
まとめ——「進化する旅のカタチ」を言語で支える
ツーリズムEXPOジャパン2026のテーマ「進化する旅のカタチ」は、観光産業全体が直面している変化を象徴しています。旅行者の価値観が多様化し、デジタル技術が進化し、国境を越えた交流がますます活発になる中で、「伝える」ことの重要性はかつてないほど高まっています。
約70ヵ国・地域が集うこのイベントは、日本の観光産業にとって、自らの魅力を世界に発信する絶好の機会です。同時に、世界の観光トレンドを学び、グローバルスタンダードを取り入れる機会でもあります。
しかし、どれほど素晴らしい観光資源があっても、それを「伝える」手段がなければ、その価値は届きません。言語とは、単なるコミュニケーションツールではなく、価値を届けるための「架け橋」です。
アットグローバルは、翻訳・ローカライゼーションの専門企業として、観光産業のグローバルコミュニケーションを支援してきました。多言語サイトの構築から、インバウンド向け販促物の制作、現地スタッフ向け研修資料の翻訳、さらには異文化理解研修まで、言語に関わるあらゆる課題に対応しています。
「進化する旅のカタチ」を実現するために、言語と異文化理解の専門家の力を活用してみませんか。



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