野良犬・猫も幸せに生きてほしい!トルコ人が野良動物を愛する理由とは?(インタビュー後編)

トルコ動物愛護(後編)

トルコ在住インフルエンサーが語る!野良動物たちとの共存の取り組み(インタビュー前編)では、トルコと日本での動物との距離感が根本的に異なる印象を持ちました。引き続きAiraさんに、トルコで今のような動物愛護の形になった背景や歴史についてお聞きしたいと思います。

インタビューに答えてくださったのは・・・

トルコ在住 Airaさん
トルコの地中海に面する街に住むインテリアアドバイザー 兼 インフルエンサー。 可愛い犬猫の動画を中心に、動物にやさしいトルコの様子をアップするTikTokはフォロワー6.5万人超、再生数400万超の動画も多数あり。ブログ、インスタ、Youtubeアカウントもあり、トルコ観光や移住に役立つ情報も発信している。好きなものは「4つ足の生き物」、座右の銘は「まぁいっか。」

目次

トルコの動物愛護の背景と歴史は?

――トルコはヨーロッパとアジアが交差する非常に特殊な地域ですよね。様々な文化が入っては出ていく場所だと思います。加えてトルコの主な宗教はイスラム教です。現在の動物愛護の考え方は、こういったもののうち何が影響していると思いますか?

Airaさん:そうですね。確かにイスラム教では、動物に対しても慈悲深くあることを推奨しています。イスラム教の創始者ムハンマドは、動物に対する優しさを示す多くの逸話を残しています。

例えば、預言者ムハンマドが可愛がっている雌のネコのムエザが彼の礼拝服の上で寝ていたときに、ムエザを起こさないように服の袖を切り落としたと伝えられています。このように彼が猫を愛し、ネコを大切にするように教えたことは有名です。

またイスラム教では、無意味な殺生も禁止していて、これらが動物を大切にしているトルコの人々に影響を与えたと考えることができます。でも私は、別の理由の方が大きく影響しているように思います。それは、ムスタファ・ケマル・アタテュルクというトルコの建国の父の影響です。

ムスタファ・ケマル・アタテュルクとはどんな人物?

――ムスタファ・ケマル・アタテュルクですか。日本ではあまり聞いたことがないですね。どんな方だったんでしょうか?

Airaさん:ムスタファ・ケマルは、1881年5月19日に生まれ、1938年11月10日に亡くなった人物です。彼はオスマン帝国の将軍として多くの戦いで勝利し、その後トルコ共和国の初代大統領になりました。トルコの近代化を推進し、議会から「父なるトルコ人」を意味する「アタテュルク」の称号を贈られた英雄なんです。

現在のトルコ共和国にも、彼の政治思想が受け継がれ、今でもアタテュルクの遺産は、トルコの近代化と世俗主義の象徴として、現在も多くのトルコ人に尊敬されています。

――なるほど、現在でも尊敬され、愛されているんですね。でもそのムスタファ・ケマル・アタテュルクと動物愛護とどういう関係があるのでしょうか?

Airaさん:実はトルコ人に愛され、尊敬されているこのケマル・アタテュルクが、犬や猫を愛していた事は良く知られているんです。トルコのあらゆる場所、カフェや病院などでポスターが飾られています。彼のポスターがない場所はない、と言えるくらいです。これは、保育園のお遊戯会での写真です。国旗と共にケマル・アタテュルクの旗が飾られています。

トルコ保育園のお遊戯会
※ムスタファ・ケマル・アタテュルクを讃えるイベントの様子

私がこの結論に至った理由は、他のイスラム教を主な宗教とする国に住んだ経験があるからです。たとえばキルギスタンに住んでいた時は、トルコほど野良動物が愛されてる様子は見られませんでした。ですので、トルコに来たとき、同じイスラム教の国でもこんなにも違うのかと驚きました。

――なるほど、そういう背景が理由なのかもしれませんね。いま少しケマル・アルタテュルク氏のことを調べてみましたが、1930年に撮影した彼が動物と映っているポスターが人気のようだということが分かりました。こちらのサイトでは、ケマル・アタテュルクが飼っている犬と一緒に写っているポスターが額と一緒に売られていますが、評価が4.5で、しかも5万件も感想が入っているんですよね。

ケマル・アタテュルク

ケマル・アタテュルク

現代の動物に関するトルコの法律は?

Airaさん:興味深いですよね。しかし、ケマル・アタテュルクがトルコを建国して以来、動物愛護が一貫して行われてきたわけではありません。現在も法律は少しずつ改訂され、より動物愛護に配慮したものへと調整されています。

例えば最近で言うと、2021年に可決された「動物の権利法(Animal Rights Law)」では、動物を「モノ」や「商品」ではなく「生き物」として再定義し、動物の権利を保護することを強調しています。

    参照元:「動物の権利法(Animal Rights Law)」

    https://www.resmigazete.gov.tr/eskiler/2021/07/20210714-9.htm

また動物の虐待と殺傷の罰則が強化され、 動物を虐待したり故意に殺傷した場合、これまでの少額の罰金刑から、半年から4年の懲役刑が科されるようになりました。この懲役刑は、罰金や保釈金などに減刑されることはありません。今後、ペットの虐待という「犯罪」は裁判所で扱われることになります。さらにこうした「犯罪」は犯罪履歴に記録されます。

また闘犬や闘鶏が犯罪として扱われ、警察によって加害者または犯罪者が捜査されます。ペットショップはオンラインでのみ動物を販売することができ、飼い主が見つかるまでは自然な環境で飼育することが求められます。

このように法律は、より動物たちが良い環境で生活できることを目指し人間の側の行動を規制することを求めています。

トルコ 野良猫
※のびのび過ごすトルコの野良猫たち

――なるほど。動物たちが良い環境で生活できるように一貫した政策がなされているんですね。ネット上では「トルコ人はイスラム教徒だから動物に優しい」という意見をよく目にしますが、Airaさんのお話を聞いていると、一概にそれだけの理由ではないようですね。初代大統領の手本があり、動物を愛する気持ちが親から子へと受け継がれていき、同時に法整備も進めることで、動物との共存の道を探っている様子が見えてきました。

ちなみに日本でも「動物の愛護及び管理に関する法律」というものがあり、動物を命あるものと定義、虐待の禁止や厳しい罰則を設けています。例えば、愛護動物をみだりに殺傷した場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。

    参照元:「動物の愛護及び管理に関する法律」(通称:動物愛護管理法)

    https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/revise_r01.html

日本人も基本的には動物好きで大切にしている人が多いとは思いますが、一部伝統的な闘犬が行われていたり、ペットショップでは狭いケースの中に動物たちが入れられたりしています。この辺り、ビジネスや伝統が関係してくるところは規制がなかなか進まないかもしれませんね。

トルコと日本のペットショップの違い

ところで、トルコのペットショップでは、ペットの売り買いはされていないんですよね。もし血統証付きの犬猫を購入したい場合、どうするのでしょうか?

Airaさん:はい、トルコのペットショップは、動物を売り買いする場所ではありません。むしろペットの餌やお世話の道具を買う場所です。ですから当然、狭いケージに動物が閉じ込められているのを見ることはありません。

トルコ ペットショップ
トルコ ペットショップ
※トルコのペットショップの様子

通常、野良犬や野良猫は雑種が多いですが、一方で、血統証付きの犬猫を家のペットとして飼いたい人もいます。そうした人たちは、直接、ブリーダーと連絡を取り、気に入った血統の動物を買う人たちもいます。

自分の家でペットを飼う人たちは、犬にリードを付けて散歩したり、猫なら家から出さないようにするなどしていますから日本とほぼ同じスタイルと思っていただいて間違いないです。

飼い犬、飼い猫の場合、狂犬病やその他の予防接種などを受けさせる義務がありますが、そこに特に補助金があるわけではありません。政府が主にサポートしているのは野良の動物だけということになりますね。

今後の日本はどうなる?

――なるほど、日本でも時々ペットショップやブリーダー関連で動物の虐待に関する報道があります。今のところペットショップで動物を売り買いすることがなくなる気配はありませんが、世界的にはペットショップを禁止する流れになってきているので、日本でも今後変わっていくかもしれませんね。

今回は、トルコの野良動物がどのように保護され、そして市民から愛されているのかをよく知ることができました。最後にあいらさんから、この記事の読者に伝えたいことはありますか?

Airaさん:この記事を読んで動物との関わり方を考えるきっかけになってもらえたら嬉しいです。トルコはインフレの影響でいつまでこの動物と人間の関係性が続くかわかりませんが、基本的に動物に優しい国民性は無くならないと思います。ぜひトルコに遊びに来て動物と触れ合って頂きたいです。でも動物に触る触らないは自己判断でお願いしたいと思います。

――Airaさん、ありがとうございました!

ちょうどインタビューを終えてこの記事を準備している時に、

トルコ政府が野犬を殺処分する法案を作成したことを受け、最大都市イスタンブールで2日、数千人が抗議デモを行い、「虐殺反対」とシュプレヒコールを上げた。

時事通信

というニュースがありました。トルコ当局としては、国内の野犬を減らしたいと思っているようですが、一般市民は反対のデモを行なっているようです。

トルコでは、長年にわたり高インフレに悩まされていて、財政赤字も拡大しています。今後の動物たちとの関わり方・経済とのバランスについて、トルコ国民はどんな選択をするのでしょうか?また日本はどんな道を選ぶのが良いのでしょうか?

動物の権利について考えることによる道徳の向上、動物を可愛がることで得られる幸せ、動物による怪我や病気の危険、経済とのバランス・・・動物との適切な関わりを模索するにあたって、考えるべき要素がたくさんあることが分かりました。ひとりひとりが自分・社会・動物にとってのベストをよく考え、そしてよく話し合って、人にとっても動物にとっても幸せな社会を作っていきたいものです。

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