英語の文章で目にする長い横棒「―」(ダッシュ)。「ハイフンと何が違うの?」「この記号が出てくると、どう訳せばいいの?」と迷った経験はありませんか。
実は、このダッシュの役割を正しく理解するだけで、英文の読解スピードと正確さは劇的に向上します。さらに、英作文で使いこなせれば、あなたの表現力はより一層豊かになるでしょう。この記事では、翻訳会社アットグローバルが、プロの視点から英語のダッシュの自然な訳し方のコツや役割、種類まで、豊富な例文と共に分かりやすく解説します。
- ダッシュとハイフンの違いを理解できる
- エンダッシュとエムダッシュの使い分けを習得できる
- エムダッシュの主な訳し方を理解できる
- ダッシュの効果的な使い方と注意点を学べる
ハイフンとダッシュの違い

まず、多くの人が混同しがちな「ダッシュ」と「ハイフン」。見た目も似ていますが、その役割は全く異なります。まずは両者の基本的な違いを確認しましょう。
見た目の長さと基本的な定義
まず、見た目の長さが違います。一般的に、一番短いのがハイフン、それより長いのがダッシュです。そして、最も重要なのがその定義(役割)の違いです。
- ハイフン(-): 複数の単語をつないで「1つの語」を作るための記号。
- ダッシュ(–, —): 文章に「区切り」や「補足情報」を加える句読点の一種。
役割は全く別!使い分けのポイント
それぞれの役割を具体例で見てみましょう。
- ハイフンの役割:単語と単語をつなぐ
- 例: part-time (パートタイムの)、 well-known (有名な)、 mother-in-law (義理の母)
- 複数の単語をハイフンで結び、新たな一つの形容詞や名詞を作ります。
- ダッシュの役割:文や語句に情報を付け加える
- 例: He loves two things—singing and dancing. (彼は2つのことが大好きです。歌うことと踊ることです。)
- two things という情報に、「歌うことと踊ること」という具体的な説明を付け加えています。
このように、ハイフンが単語を作るのに対し、ダッシュは文の構造に影響を与える、という根本的な違いがあります。
さて、ダッシュとハイフンの違いがわかったところで、次は『英語のダッシュには2種類ある』という点に注目しましょう。
ダッシュの種類と使い方:エンダッシュとエムダッシュ
ダッシュとハイフンの違いについて理解できたと思いますが、実は、ダッシュは2種類存在します。それが「エンダッシュ(en dash)」と「エムダッシュ(em dash)」です。
それぞれの名称の由来は、エンダッシュは「大文字のNの長さ」、エムダッシュは「大文字のMの長さ」です。(参照:merriam-webster)
では、それぞれの使い方と訳し方をマスターしていきましょう。
「範囲」や「関係」を示すエンダッシュ(en dash)
エンダッシュ(–)は、主に数字や単語の「範囲」や「関係性」を示します。訳し方はシンプルで、「~から~まで」と覚えておけば問題ありません。
- 使用例(期間・範囲): 2021–2025, pages 10–15
- 使用例(関係性): The Tokyo–Osaka train (東京-大阪間の電車)

エムダッシュは「ハイフン (-) 2つ + 半角スペース」で入力できるのに対し、エンダッシュは特殊記号の挿入機能から選んで挿入しないといけないため、かなり毛嫌いされているんです。本や正式な文書ではエンダッシュが使われますが、日常シーンでは基本的にハイフンに置き換えられています。
「補足説明」や「強調」で活躍するエムダッシュ(em dash)
一般的に英文で「ダッシュ」と言えば、このエムダッシュ(—)を指すことがほとんどです。会話や少しくだけた文章で、カンマやコロン、カッコの代わりとして幅広く使われ、文章にリズムや感情を加える役割があります。
例1: It’s not you — it’s me.
訳:君のせいじゃない。僕が悪いんだ。(別れの常套句)
例2: Jake — who hates flying — actually booked a trip to the States.
訳:あれほど飛行機が嫌いなジェイクが、アメリカ旅行の予約をしたんだ。
このようにダッシュには2種類あることを理解していただけたかと思います。一般的なダッシュ(エムダッシュ)を訳す時に、コツを覚えておくと英文読解をスピーディーに行えます。そのパターンについて次に解説しましょう。
まとめると、以下の表のようになります。
記号 | 名称 | 例 | 用途 |
– | ハイフン | well-known | 単語同士の結合 |
– | エンダッシュ | 2021–2025 | 範囲・関係性を示す |
— | エムダッシュ | —補足— | 補足説明・強調・挿入など |
次に、英語の文章に出てくるダッシュをどう訳せばよいのか、コツについてお話ししましょう。
エムダッシュの3つの訳し方


エムダッシュの訳し方は、大きく3つのパターンに分けられます。この型を覚えれば、多くの英文をスムーズに理解できるようになります。
パターン①:補足説明・言い換え(「つまり」「すなわち」)
ダッシュの最も一般的な用法です。直前の語句について、より具体的に説明したり、別の言葉で言い換えたりします。コロン(:)の役割と似ていますが、ダッシュの方がより口語的で、少し強調したニュアンスになります。
- 例文: His family consists of three people—his father, his mother, and him.
- 訳し方のコツ: ダッシュを「つまり」「すなわち」と心の中で補って訳します。あるいは、ダッシュの前で一度文を切り、「。」で区切って訳すと非常に自然な日本語になります。
- 訳例:「彼の家族は3人です。それは彼の父と母、そして彼自身です。」
- 自然な訳:「彼の家族は3人です。父と母、そして彼自身です。」
パターン②:文の途中への挿入(カッコと同じ感覚)
文の途中に、補足情報や筆者のコメントを挟み込む役割です。日本語の「( )」のように考えると非常に分かりやすいでしょう。
- 例文: My favorite author—Jane Austen—wrote many great novels.
- 訳し方のコツ: ダッシュで囲まれた部分をカッコでくくるように訳すか、文の構造を自然に組み替えます。
- 訳例:「私の好きな作家(ジェーン・オースティンですが)は、多くの素晴らしい小説を書きました。」
- 自然な訳:「私の好きな作家であるジェーン・オースティンは、多くの素晴らしい小説を書きました。」
パターン③:強調・ドラマチックな展開
文末で使い、余韻や驚き、あるいは意外な結論を強調します。文章に意図的な「間」を作り、読者の心に余韻を残す効果があります。
- 例文: The welfare policy was finally implemented—too late.
- 訳し方のコツ: ダッシュの前で一度訳を区切り、「だが」「しかし」「結局は」といった言葉を補うと、書き手の意図したニュアンスがより明確になります。
- 訳例:「その福祉政策がついに施行された。――しかし、あまりにも遅すぎた。」
ここまではダッシュを「読む」ための知識を解説してきましたが、ここからは一歩進んで、あなたが「書く」側としてダッシュを使いこなすためのコツをご紹介します。
英文におけるダッシュの使い方


ダッシュは、正しく使えば文章を生き生きとさせ、あなたの個性を表現する強力な武器になります。カンマやカッコ、コロンといった他の記号と「なぜダッシュを選ぶのか」という視点を持つことが、効果的な使い方への第一歩です。
表現が豊かになる!ダッシュの効果的な使い方
ダッシュが特に効果を発揮するのは、文章に「人間的な思考の流れ」や「感情的なニュアンス」を加えたい時です。主に3つの効果的な使い方があります。
① 思考の「脱線」や「ひらめき」を表現する
文章を書き進める途中で、ふと思いついた補足情報や個人的な意見を、会話のように自然に挟み込みたい場合にダッシュは最適です。カッコ()が客観的な補足であるのに対し、ダッシュはより主観的で「心の声」に近いニュアンスを表現できます。
例文: I went to the new coffee shop this morning—the one everyone’s talking about—and it was fantastic. (今朝、新しいコーヒーショップに行ったんだ――ほら、みんなが噂しているあそこ――すごく良かったよ。)
この例文では、「the one everyone’s talking about」という補足情報が、まるで会話の途中で「あ、そうそう」と思い出したかのように挿入されており、文章に躍動感を与えています。
② 会話のような「間」と「リズム」を生み出す
読み手に直接語りかけるような、テンポの良い文章を作りたい時にもダッシュは活躍します。ダッシュが作り出す一瞬の「間」は、読み手の注意を引きつけ、その後に続く言葉を効果的に印象付けます。
例文: You know that feeling when you finally solve a difficult problem? That’s what I felt—pure relief. (難しい問題がようやく解けた時のあの感じ、わかるでしょう? 私が感じたのはそれ――純粋な安堵感でした。)
文末にダッシュを置くことで、「pure relief」という結論が強調され、読者は書き手の感情をより強く共有できます。
③ あえて「結論」を後に置いて劇的に見せる
文章の構成を工夫し、読者を惹きつけたい場合にもダッシュは有効です。重要なキーワードや結論をあえてダッシュの後に置くことで、 ドラマチックな効果やサプライズを演出できます。
例文: He searched everywhere for his keys, in his pockets, on the table, in his bag—and finally found them in the refrigerator. (彼は鍵をあらゆる場所、ポケットの中、テーブルの上、カバンの中を探した――そして最後に見つけたのは、冷蔵庫の中だった。)
一連の行動の後にダッシュを置くことで、意外な結末である「in the refrigerator」が際立ち、ユーモラスで記憶に残りやすい文章になります。
多用は禁物!効果的な使い方と注意点
ダッシュの表現力は魅力的ですが、その強さゆえに使い方には注意が必要です。
ダッシュは視覚的にも文章の流れの中でも強いインパクトを持つため、多用すると「どこが本当に重要な部分なのか」が曖昧になり、かえって強調効果が薄れてしまいます。また、メインの文章がダッシュによる補足で何度も中断されると、読者は話の筋を見失い、「まとまりのない散漫な文章」という印象を受けてしまいます。
効果的に使うための注意点は以下の通りです。
- 1つの段落で1〜2回までを目安に: あくまで目安ですが、使いすぎを防ぐ意識が重要です。ダッシュは料理でいう「スパイス」のようなもの。ここぞという場面で使うからこそ、その効果が最大限に発揮されます。
- フォーマルな文章では慎重に: ダッシュは少しインフォーマルで会話的なニュアンスを持つため、学術論文や公式なビジネス文書など、格調高い文章では使用を避けるか、慎重に検討するのが一般的です。そのような場面では、ダッシュの代わりにコロン(:)やカッコ()を使う方が適切です。
- カンマやコロンで十分ならそちらを優先: 文章の構造を整える基本的な役割は、ピリオドやカンマが担います。ダッシュでなければ表現できない特別な効果(思考の脱線や強い強調など)を狙う時以外は、まず基本的な句読点で表現できないかを考えましょう。



em dashにはドラマチックさを出したり強調したりする効果があるため、使用すると文章に「小説っぽさ」が出やすくなります(実際、小説やエッセイではよく使われています)。逆に言えば、友達とのチャットなどで使うのは不自然です。
普段の会話で、「まるで○○のように~」という表現が不自然に感じるのと近い感覚かもしれません。ビジネスシーンであれば、強調や明確化の目的で使うのがベスト(ただし使いすぎには注意)。この記事に載っている例文から、em dashが醸し出す独特の雰囲気を感じ取ってみてくださいね。
英語のダッシュに関するQ&A
最後に、ダッシュに関してよく寄せられる質問にお答えします。
- ハイフンとダッシュ、結局一番の違いは何ですか?
-
ハイフンは「単語レベル」で複数の語を1つにする記号、ダッシュは「文章レベル」で区切りや補足を入れる記号です。 このように、使われる次元(単語か、文か)が根本的に異なります。
- 英文のダッシュ(―)は声に出してどう読めばいいですか?
-
特別な読み方はありません。 黙読・音読の際は、コンマよりも少し長い「間(ま)」を意識すると、文章の意味やリズムを自然に掴むことができます。
- 英語のダッシュは日本語の「伸ばし棒(ー)」と同じ意味ですか?
-
全く違います。 日本語の伸ばし棒は母音を長く伸ばすための記号(長音符)です。一方、英語のダッシュは、本記事で解説したような「区切り」「補足」「強調」といった役割を持つ、歴とした句読点の一種です。
英語のダッシュ 訳し方まとめ
本記事では、英語のダッシュ(―)の訳し方と使い方について、以下の点を解説しました。
- ダッシュとハイフンは、長さも役割も全く異なる。
- ダッシュには範囲を示す「エンダッシュ」と、補足・強調の「エムダッシュ」がある。
- エムダッシュの訳し方は「補足説明」「挿入」「強調」の3つの黄金パターンを覚えればOK。
ダッシュのルールをマスターすれば、英語の文章がこれまで以上にはっきりと、そして深く理解できるようになります。もう英文中の長い横棒に戸惑うことはありません。ぜひ今後の英語学習にお役立てください。
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