ネパールは、その人口の8割がヒンズー教です。ヒンズー教ではお酒はご法度とされており、インドでは規制されている地域もありますが、ネパールではほとんどの人は気にしておらず、飲酒は一般的です。各家庭で作ったり、クラフトビールが人気だったりします。そんな中、伝統的なアルコール飲料「トゥンバ」というものがあります。

ネパールでは各家庭でお酒を作って個人的に楽しむことは合法ですが、許可を得ていない人が自家製のお酒を売ることは違法ですので、注意してください。
このお酒は、一言で言うと「ビールの熱燗」です。ビールは冷えていておいしいと感じる日本人からすると驚きですが、こういう体験こそ、海外旅行や異文化理解の醍醐味だと思います。
それでこの記事では、トゥンバとは?から始まり、ネパールの豊かな文化や料理にまで広げて解説していきます。ぜひお楽しみください。
- トゥンバの概要と文化的意義とは
- トゥンバの製法と他のネパールの伝統的なお酒との違い
- トゥンバに合うネパール料理とは
- トゥンバを楽しめる場所と購入方法について
この記事の監修者
株式会社アットグローバル ネパール在住スタッフ
2014年~ ネパール在住。国立トリブバン大学ビソバサ言語学科でネパール語を学び、以降ネパール語の通訳・翻訳に携わる。他にも日系企業や学術機関からの依頼により、現地コーディネートやネパールに関わる依頼を幅広く担当。ネパリスタイルの髭のおかげで、ほぼ日本人だとばれることなく過ごしている。
トゥンバとは?


参照:wikipedia
トゥンバの概要
トゥンバは、ネパールの文化に深く根ざした伝統的なアルコール飲料で、「ミレットビール」とも呼ばれ、単なるリフレッシュメントとしてだけでなく、もてなしと共同体の絆の象徴でもあります。
トゥンバはその名を冠した容器、円筒形の木製または金属製の容器で伝統的に提供されます。そこに穴の開いた竹か金属のストローを刺し、濁った液体を吸います。
発酵させたものにお湯を注ぐと、ポコポコと泡が湧いてくるので、そうすると飲み頃と分かります。そしてお湯を何回も注いで何回も楽しむことができます。4回目以降からは味が薄くなってしまうので、3杯くらいがお勧めです。
トゥンバの味は、軽いアルコール風味で、滑らかでやや酸味があり、ミルクっぽい、そしてパンのような味わいが感じられます。アルコール度数は通常2%から5%の範囲で、比較的軽い飲み物です。低アルコール度数にもかかわらず、大量に摂取すると持続的な酔いをもたらすことがあるので飲みすぎ注意です。
文化的および社会的意義に加えて、トゥンバはその潜在的な健康効果でも評価されています。グリコシド、アミノ酸、テルペノイドなどの生物活性成分を含み、抗酸化作用や抗菌作用があるとされています。これらの成分は消化を助け、免疫力を高め、寒冷な高地環境で体の水分を保持するのに役立つと信じられています。
トゥンバの歴史と文化
トゥンバは、特に東部の山岳地域に住むリンブー族の間で、ネパールの文化と社会生活において重要な位置を占める伝統的なアルコール飲料です。このミレット(雑穀)を原料とした飲み物は、ネパールの高地の伝統と日常生活に深く結びついています。
トゥンバの起源は、ネパール東部のリンブー族やライ族の民族コミュニティに遡ります。歴史的に、この地域ではミレットの栽培が広く行われており、トゥンバは余剰の穀物を利用する方法として生まれました。
時を経て、祭りや集まり、社交の場で楽しまれる大切な伝統となり、トゥンバを共有する行為は友情を育み、社会的絆を強化するため、ネパールの文化生活に欠かせない存在となりました。今ではインドのシッキムやダージリン地方にも広がり、チベット系民族で広く親しまれています。
トゥンバの製法と特徴
トゥンバの製法
稗(ひえ)と黍(きび)の実(これをミレットと呼ぶ)を大きな鍋に入れ、ミレット1に対し水2の割合で湯がきます。1時間ほど調理したら広げて冷まします。そこにケスンと呼ばれる微生物の培養物を加えて数週間発酵させます。これによって自然酵母が発生します。
この時、混合物は暗くて風通しの良い場所に置き、カビが発生するのを待ちます。カビが見えてきたら今度はそれを密閉容器に移してさらに発酵させ、2,3週間経ったら固形物のマンドクペナア・ティーが出来上がります。
さらに良い味のトゥンバにするためには、ここからさらに3〜6か月の熟成期間が必要になります。このようにして味わい深いトゥンバになる材料が完成します。
実際にトゥンバが完成する
熟成されたミレットの一部を伝統的なトゥンバ容器に入れます。そこに沸騰したお湯を注ぎ、約5分間浸します。そして穴の開いた竹のストローを使って濁った液体を吸います。
ストローは固形のミレット粒を濾し、液体だけを楽しむことができます。ミレットの風味とアルコールを抽出するために、容器にお湯を数回追加し、最後に粒を捨てます。
トゥンバと他のネパール酒(ロキシー、チャン)の違い
ネパールには、独自の製法や文化的意義、風味を持つ伝統的なアルコール飲料が豊富にあります。その中でも、トゥンバ、ロクシー、チャンは特に際立っています。ここでは、これらのネパールの伝統的な酒の違いを詳しく比較します。
項目 | トゥンバ | ロクシー | チャン |
基本材料 | ミレット | ミレット、米、大麦、小麦 | 大麦、ミレット、米 |
製法 | 発酵、熱湯で浸す | 発酵後に蒸留 | 煮て発酵、醸造 |
アルコール度数 | 2-5% | 約45% | <10% |
風味 | 軽い、滑らか、やや酸味 | 強い、クリア、焼ける感覚 | 甘酸っぱい、ミルキー |
文化的意義 | 儀式、もてなし | 祝祭、儀式、薬用 | 儀式、祝祭、日常飲料 |
地域 | 東ネパール | ネパール全土 | チベット、ネワール族コミュニティ |
現地でのトゥンバの楽しみ方と料理
トゥンバと相性の良いネパール料理
おいしいトゥンバを最大限に楽しむためには、適切なネパール料理と組み合わせることが重要です。ここでは、トゥンバにぴったりの伝統的な料理を紹介します。
1. モモ


モモは、肉や野菜を詰めたネパールの餃子です。蒸したり揚げたりして提供され、アチャール(スパイシーなディッピングソース)と一緒に食べられます。モモの風味豊かでスパイシーな味わいが、トゥンバの軽くてやや酸味のある味とバランスが取れ、絶妙な組み合わせになります。



モモは蒸したものが一番人気ですが、焼きモモ、揚げモモ、チリソースにからめたモモもあり、お酒によって組み合わせを変えてみるのもお勧めです。ビールは揚げモモがおすすめ!
2. セクワ


セクワは、マリネした肉(通常は鶏肉、豚肉、またはヤギ肉)を炭火で焼いたネパールのバーベキュー料理です。セクワのスモーキーでスパイシーな風味が、トゥンバの温かくて土っぽいノートと相性が良く、全体の味わいを引き立てます。
3. トゥクパ


トゥクパは、野菜や肉、風味豊かなスープで作られたチベット起源のボリューム満点のヌードルスープです。トゥクパの温かくてリッチな味わいが、トゥンバの心地よい温かさと相性が良く、特に寒い季節にぴったりです。
4. チャタマリ


チャタマリは「ネパールのピザ」とも呼ばれ、米粉のクレープにひき肉、卵、野菜、スパイスをトッピングした料理です。チャタマリのカリカリとした食感と豊かなトッピングが、トゥンバの滑らかで穏やかな風味と対照的で、満足感のある組み合わせです。
5. クワティ


クワティは、栄養価が高く、豊かな風味を持つ伝統的なネパールのミックスビーンズスープです。クワティのボリューム感と滋養豊かな性質が、トゥンバの軽いアルコールの温かさと相性が良く、心地よい組み合わせです。
6. ダルバート


ダルバートは、ご飯(バート)とレンズ豆のスープ(ダル)からなるネパールの国民食で、野菜カレーやピクルス、時には肉が添えられます。ダルバートのバランスの取れた風味と栄養豊かな内容が、トゥンバの微妙な味わいと調和し、万能な組み合わせとなります。
7. セル


セルは、伝統的なネパールのリング状の米パンで、カリカリに揚げられています。甘くてカリカリとした性質が、トゥンバの温かくて軽いアルコールと対照的で、完璧なスナックとして楽しめます。
トゥンバの購入方法と入手先
日本でトゥンバを飲める場所は?
日本の通販などではトゥンバは売っていません。なかなか保存が効かないですし、缶や瓶に入れられる類の飲み物ではないからですね。
でも日本にあるネパール料理店では、トゥンバが提供されていることがあり、中には持ち帰り用として販売している場合もあります。ぜひネパール料理屋に行った時には店員さんに聞いてみてください。実際のトゥンバを体験できますよ。
現地でトゥンバが飲める場所
ここまで読んできたあなたは、ネパールに行ったら、ぜひトゥンバを飲んでみたいと思っていることでしょう。実際にはどこに行けばトゥンバを飲めるのでしょうか?
祭りや儀式
地元の祭りや儀式に参加すると、トゥンバを体験できるかもしれません。これらのイベントでは、必ずと言っていいほど伝統的な飲み物が提供されます。カトマンズエリアのイベントならトゥンバの出店を出しているところもあるので、そこに行けば飲むことができるでしょう。



ただし、お祭りではハメを外す人が多く、酔って絡んでくる人もたくさんいますので、注意が必要です。特に女性のみの場合は、酔っている人には近づかないように気を付けてください。
家庭の設定
地元の家庭を訪れる機会があれば、トゥンバをごちそうしてくれるかもしれません。地元の人にとっての誇りであるトゥンバには、心からのもてなしの気持ちがこもっています。
地元のレストラン・食堂
何より手っ取り早いのは地元のレストランや食堂に行くことです。カトマンズや他の都市の小さな地元の食堂では、トゥンバが提供されています。人気のあるおすすめのお店をいくつか紹介するので、ぜひ立ち寄ってみてください。
1. Utse Restaurant


写真参照:Tripadvisor
場所:Thamel Jyatha, Kathmandu 44600 Nepal
詳細:Utse Restaurantは、カトマンズのタメル地区に位置するレストランで、特にチベット料理を提供しています。モモ(餃子)、ガコク(チベット風の鍋料理)などが人気です。ガコクは、肉、野菜、キノコなどを炭火で温めながら提供されます。
2. スモールスター レストラン(カトマンズ)


写真参照:Google
場所:P866+54W, Nityanath Marg, Kathmandu 44600, Nepal
詳細:スモールスター レストランは、トゥンバ愛好者に人気のスポットです。タヒティ広場近くの賑やかな路地に位置し、伝統的な食事と優れたトゥンバを提供しています。レストランでは、大きなポットに発酵したミレット粒を入れ、熱湯を注いで作るトゥンバを竹のストローで飲むことができます。
3. 地元のバッティ(伝統的な居酒屋)
場所:カトマンズやパタンの各地
詳細:バッティは、ネパールの伝統的な居酒屋で、トゥンバを含むさまざまな地元のアルコール飲料を提供しています。これらの店は、隠れた場所にあることが多く、居心地の良い本格的な雰囲気を提供します。バッティでは、伝統的な容器でトゥンバを楽しむことができます。
トゥンバの価格帯と相場
最近は円安が加速しているので、私たちがネパールでトゥンバを飲もうとしても昔ほど安くはないでしょう。でも大体の価格帯や相場を知っておくと吹っ掛けられることを避けられます。
価格帯
レストランやバーでの価格
カトマンズやポカラなどの都市部のレストランやバーでは、トゥンバ1杯の価格はおおよそ200ネパールルピー(約200円)から400ネパールルピー(約400円)程度です。観光地ではやや高めの価格設定がされていることが多いです。
地元の居酒屋(バッティ)での価格
地元の居酒屋やバッティでは、トゥンバはさらに安価で提供されることが多く、1杯あたり100ネパールルピー(約100円)から200ネパールルピー(約200円)程度です。これらの場所では、より本格的な体験ができることが魅力です。
相場
都市部と地方の違い
都市部では、観光客向けに価格がやや高めに設定される傾向がありますが、地方ではより手頃な価格で提供されることが多いです。特に、トゥンバの発祥地である東ネパールの地域では、地元の人々が日常的に消費するため、価格は比較的安価です。
品質と価格の関係
トゥンバの品質は、使用されるミレットの種類や発酵プロセスによって異なります。高品質なミレットと伝統的な発酵方法を用いたトゥンバは、一般的に高価格で提供されます。一方、簡易的な方法で作られたトゥンバは、価格が低めに設定されることが多いです。


ネパールのお酒トゥンバまとめ
- トゥンバはネパールの伝統的なアルコール飲料
- ミレットビールとも呼ばれる
- 特に東部の山岳地域で人気
- リンブ族の間で広く楽しまれる
- ミレットを発酵させて作る
- トゥンバポットと呼ばれる容器で提供される
- 穴の開いた竹のストローで飲む
- 儀式や祭りで重要な役割を果たす
- 軽いアルコール風味で滑らかな味わい
- アルコール度数は2%から5%
- 健康効果があるとされる
- 文化的な意味合いが強い
- トゥンバはもてなしの象徴とされる
- 社交の場で欠かせない飲み物
- トゥンバは友情を育む飲み物とされる
- ネパール料理と相性が良い
- 地元の食堂や祭りで楽しめる
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