日本×ベトナムのホテル提携から考える、アジア展開に不可欠な「言語とブランドの翻訳」

2026年6月、株式会社ホテルマネージメントジャパン(HMJ)とベトナム拠点のFusion Hotel Group(FHG)が、アジアにおけるホスピタリティの進化を目指す戦略的パートナーシップを締結しました。日本国内27ホテル・約9,000室を運営するHMJと、ベトナム・タイで19施設を展開しウェルネスを軸としたブランドを持つFHGの協業は、アジア全域をひとつの市場として捉える新たなホテル経営モデルとして注目されています。

参考:【HMJ】 ホテルマネージメントジャパンとFusion Hotel Group – アジアにおけるホスピタリティのさらなる進化を目指し戦略的パートナーシップを締結(PR TIMES)

このような、国境を越えた提携には必ず「言語」と「文化」の壁が立ちはだかります。ブランドコンセプトを共有し、人材を育成し、サービス品質を統一する——これらすべてのプロセスで、単なる語学力ではなく「意味」と「ニュアンス」を正確に伝える翻訳・ローカライゼーションが不可欠になるのです。

翻訳・ローカライゼーションを専門とするアットグローバルは、ホテル・観光業界のクライアントと数多く向き合ってきました。本記事では、HMJ×FHGの提携内容を入口に、アジア展開を進めるホテル企業が直面する言語課題と、その解決に向けた具体的なアプローチを考察します。

目次

日本とベトナムをつなぐパートナーシップの全容

今回の提携では、セールス・マーケティング、ブランド・デザイン、人事の3分野が重点領域として掲げられています。具体的には以下のような取り組みが予定されています。

・顧客インサイトの共有とセールス・マーケティングシステムの連携
・FHGが持つウェルネス中心のブランドコンセプトを一部HMJ運営ホテルへ導入検討
・ベトナム、タイ、日本を対象とした国際的な人材育成プログラムの構築

HMJの荒木潤一代表取締役COOは「両社の事業基盤がさらに強化され、アジア地域における新たな事業機会の創出につながる」と述べ、FHGのChristopher Hur CEOも「日本はアジア戦略において最も重要な市場の一つ」と日本市場への期待を明言しています。

両社が掲げる「イノベーション」「サービス品質の向上」「持続可能な成長」という共通理念は、国籍や言語の違いを超えて組織を一体化させる求心力となるでしょう。しかし、その理念を現場レベルで共有するためには、言語と文化の「翻訳」が橋渡し役として機能しなければなりません

アジア展開で直面する「3つの言語課題」

グローバルなホテル提携において、言語の壁は単なる「英語ができるかどうか」の問題ではありません。HMJ×FHGのケースを想定しながら、アジア展開で直面しやすい3つの言語課題を整理します。

① ブランドコンセプトの「意味」をどう伝えるか

FHGはウェルネスを軸としたブランドを展開しています。英語で表現される「wellness」「well-being」「mindfulness」といった概念は、日本語に直訳すると「健康」「幸福」「気づき」などになりますが、FHGが意図するブランドの世界観が正確に伝わるとは限りません

たとえば「Spa included」というサービス説明を「スパ付き」と訳すだけでは、FHGが大切にする「日常の中でウェルネスを体験する」という哲学は伝わりません。日本市場向けには、「滞在中いつでもスパをお楽しみいただけます」「心身を整える時間を、あなたの旅の一部に」といった日本人の感性に響く表現への「書き換え」が必要になります。

これは単なる翻訳ではなく、ローカライゼーションと呼ばれる作業です。言葉を置き換えるだけでなく、ターゲット市場の文化・価値観・消費行動を理解したうえで、ブランドメッセージを再構築するプロセスです。

② 国際人材育成における「教え方」の翻訳

今回の提携では、ベトナム・タイ・日本を対象とした国際的な人材育成プログラムの構築が明記されています。これは非常に先進的な取り組みですが、同時に「研修内容をどう多言語化するか」という大きな課題を伴います。

日本のホテル研修では、「お客様の立場に立って考える」「空気を読む」「一歩先のサービスを提供する」といった抽象的な表現が多用されます。これらは日本人スタッフには直感的に理解されますが、ベトナム人やタイ人スタッフには具体的な行動指針として伝わらない可能性があります。

逆に、FHGのウェルネス研修をHMJスタッフに展開する際も、「holistic approach」「guest-centric mindset」といった表現を日本語に訳すだけでは、現場スタッフが具体的に何をすべきか分かりません。

研修教材の翻訳は、単なる言語変換ではなく「教育設計の翻訳」です。学習目標を明確にし、各国のスタッフが実際に行動に移せるレベルまで具体化する必要があります。

③ 日常業務における多言語コミュニケーション

本社間の戦略的なやりとりだけでなく、現場レベルでの日常的なコミュニケーションも課題となります。日本人マネージャーがベトナム人スタッフに指示を出す場面、タイのホテルから日本の本部に報告を上げる場面、各国の営業担当者が顧客情報を共有する場面——こうした「業務のつなぎ目」で言語の壁が生産性を下げることは少なくありません。

機械翻訳ツールの活用は有効ですが、ホテル業界特有の専門用語やブランド固有の表現は、汎用的な翻訳エンジンでは正確に処理できないことがあります。また、クレーム報告やセンシティブな人事情報など、ニュアンスの正確さが求められる文書では、人間による翻訳・チェックが不可欠です。

「おもてなし」は翻訳できるのか——異文化ホスピタリティの本質

日本のホテル業界が世界に誇る「おもてなし」。この概念をアジア各国のパートナーやスタッフとどう共有するかは、HMJに限らず多くの日本企業が直面するテーマです。

「おもてなし」を英語に訳すと「hospitality」が一般的ですが、両者は完全にイコールではありません。「おもてなし」には「見返りを求めない」「先回りして気づく」「控えめに提供する」といったニュアンスが含まれており、これらは西洋的なhospitalityの概念とは微妙に異なります。

一方、FHGが掲げるウェルネス中心のホスピタリティには、「ゲスト自身が心身の調和を取り戻す」「体験を通じて変容する」といった哲学が込められています。これは日本の「おもてなし」とは異なるアプローチですが、「ゲストの幸福を願う」という根本では通じ合う部分があります。

異なるホスピタリティ哲学を持つ組織が協業する際、重要なのは「違いを認め、共通点を見つけ、新しい価値を創造する」姿勢です。そのためには、言葉の壁を越えるだけでなく、文化的知性(Cultural Intelligence:CQ)を組織全体で高めていくことが求められます。

アットグローバルでは、翻訳・通訳サービスに加えて、異文化コミュニケーション研修やCQ向上プログラムを提供しています。言語スキルと文化理解の両面からグローバル人材を育成することで、国境を越えた協業を成功に導くお手伝いをしています。

アジア市場で勝つためのローカライゼーション戦略

日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、訪日外客数は2025年に年間4,268万人を超え、過去最高を更新しました。アジアからの旅行者が大きな割合を占める中、日本のホテルがアジア市場で競争力を持つためには、単なる「外国語対応」を超えたローカライゼーション戦略が必要です。

出典:日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計

Webサイト・予約システムの多言語化

アジア各国からの予約を増やすためには、英語だけでなくベトナム語、タイ語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語など、ターゲット市場に応じた言語でのWebサイト展開が有効です。ただし、単に翻訳するだけでなく、各国の予約行動や決済習慣に合わせたUI/UXの最適化も重要です。

館内サイン・インフォメーションの最適化

多言語サインは「正確さ」と「分かりやすさ」の両立が求められます。特に安全に関わる案内(避難経路、アレルギー表示など)は、誤訳が重大なリスクにつながるため、専門家によるチェックが不可欠です。また、文化によっては禁止表現の伝え方に配慮が必要な場合もあります。

マーケティングコンテンツのローカライゼーション

プロモーション動画、SNS投稿、メールマガジンなどのマーケティングコンテンツは、ターゲット市場の文化・嗜好に合わせた「再創造」が効果的です。日本向けに作成したコンテンツをそのまま翻訳するのではなく、各市場で響くメッセージやビジュアルを検討することで、ブランドの魅力がより伝わります。

まとめ:言語戦略はグローバル展開の「見えないインフラ」

HMJとFusion Hotel Groupの戦略的パートナーシップは、日本のホテル企業がアジア市場でどのように存在感を高めていくかを示す好例です。セールス・マーケティング、ブランド・デザイン、人事——いずれの重点領域においても、言語と文化の壁を越えるための仕組みづくりが成功の鍵を握っています。

翻訳・ローカライゼーションは、しばしば「コスト」として捉えられがちですが、実際にはグローバル展開を支える「見えないインフラ」です。ブランドの一貫性を保ちながら各市場に最適化されたメッセージを届けること、国籍の異なるスタッフが同じ理念のもとで働ける環境を整えること——これらはすべて、質の高い言語戦略があってこそ実現します。

アットグローバルは、翻訳・通訳・海外リサーチ・異文化コミュニケーション研修を通じて、グローバル展開を目指す企業のパートナーとして伴走しています。「グローバルブランドと地域をつなぐ」——その架け橋となる言語戦略について、ぜひお気軽にご相談ください。

参考:【HMJ】 ホテルマネージメントジャパンとFusion Hotel Group – アジアにおけるホスピタリティのさらなる進化を目指し戦略的パートナーシップを締結(PR TIMES)

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