ペット×インバウンドの新潮流——「愛犬用機内食」から見える多言語コミュニケーションの未来

愛犬を「家族の一員」として海外旅行に連れていく——そんなライフスタイルが、いまアジアを中心に急速に広がっています。2026年5月、愛犬・愛猫向け手づくりごはんブランド「ココグルメ」を展開する株式会社バイオフィリアが、香港発・日本行きのプライベートジェットツアーにおいて「愛犬用機内食」としてココグルメの提供を開始するというニュースが発表されました。

参考:株式会社バイオフィリア プレスリリース(PR TIMES)

往復300万円というラグジュアリーな空の旅において、愛犬にも「5つ星の日本食」を届けるというこの取り組み。一見するとニッチな話題に思えるかもしれませんが、実はここには「ペットツーリズム」「インバウンド」「日本品質のグローバル発信」という、今後のビジネスを考えるうえで見逃せないキーワードが詰まっています。

翻訳・ローカライゼーションを専門とするアットグローバルは、これまで多くの企業の海外展開を言語面から支援してきました。この記事では、バイオフィリア社の事例を入口に、ペットインバウンド市場の可能性と、そこで求められる多言語コミュニケーション戦略について考察します。

目次

「ペット同伴インバウンド」という新たな市場

世界で広がる「ペットと旅する」文化

ペットを家族の一員として扱う意識は、世界的に年々高まっています。Grand View Research社の調査によると、世界のペット関連市場は2030年までに3,500億ドル規模に達すると予測されており、その中でも「ペットと共に体験を楽しむ」消費行動が顕著な伸びを見せています。

特にアジア圏では、香港・台湾・シンガポールなどの都市部を中心に、愛犬との海外旅行を楽しむ富裕層が増加しています。今回のプレスリリースでも紹介されているPet Holidays社は、2016年の設立以来、1万頭を超えるペットを世界50カ国以上へ送り出してきた実績を持つ専門企業です。

なぜ日本が選ばれるのか

Pet Holidays社のプロジェクトマネージャー、レガン・イン氏のコメントには印象的な一節があります。「香港の愛犬家にとって、日本への旅行はまるで『里帰り』のように人気があります」——この言葉が示すように、日本はペット同伴旅行先として特別なポジションを確立しつつあります。

その理由として挙げられるのが、以下の要素です。

狂犬病清浄国であり、検疫手続きが比較的スムーズ
・ペット同伴可能なホテルや施設の充実
・「OMAKASE(おまかせ)」に代表される、きめ細やかなホスピタリティ文化
・食品安全基準の高さへの信頼

日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2025年の訪日外客数は4,268万人を超え、過去最高を更新しました。この大きな流れの中で、「愛犬と一緒に日本を楽しみたい」という新たなニーズが、確実に存在感を増しているのです。

「日本品質」を世界に届けるということ

ココグルメが評価された理由

バイオフィリア社のココグルメが、香港の富裕層向けプライベートジェットツアーの機内食として選ばれた背景には、「Made in Japan」への強い信頼があります。レガン・イン氏は「様々な国のフレッシュフードを試してきたが、あまり食べてくれないことも多かった。ココグルメを導入した一番の理由は『Made in Japan』への強い信頼だ」と述べています。

ここで注目すべきは、単に「日本製だから」という漠然とした理由ではなく、以下のような具体的な価値が認識されている点です。

・日本の高い食品安全基準に基づく製造
・ユネスコ無形文化遺産「和食」に根ざした調理法
・国産の新鮮な食材を使用
・水分補給と嗜好性を両立するフレッシュフード形態

バイオフィリア社は2024年より香港・台湾での販売を開始しており、今回のプライベートジェット導入は、グローバル展開の新たなマイルストーンといえるでしょう。

「伝わる」ための言語戦略の重要性

しかし、ここで一つの問いが浮かびます。「日本品質」の価値は、海外の消費者に正しく伝わっているのでしょうか?

「国産」「手づくり」「食材本来の味」——これらの言葉は日本人にとっては直感的に理解できる価値ですが、異なる文化圏の消費者にとっては、必ずしも同じ重みを持つとは限りません。たとえば、「手づくり」という概念一つとっても、それが意味する品質へのこだわり、少量生産ならではの丁寧さ、工業製品との差別化といったニュアンスは、単純な直訳では伝わりにくいものです。

アットグローバルでは、こうした「文化的な文脈を含めた翻訳」をローカライゼーションと呼んでいます。これは単なる言語変換ではなく、ターゲット市場の消費者が持つ価値観、購買行動、感性に合わせてメッセージを再構築する作業です。

バイオフィリア社が掲げる「すべての子に『食べる喜びと健やかな日々』を届ける」という理念。この想いを世界中の飼い主に届けるためには、製品の品質だけでなく、その価値を正確に伝える言語コミュニケーションが不可欠なのです。

ペットビジネスのグローバル展開で直面する「3つの言語課題」

ペット関連企業が海外展開を進める際、翻訳・ローカライゼーションの現場でよく見られる課題を整理してみましょう。

① 専門用語と感性表現の両立

ペットフードのパッケージや説明文には、栄養学的な専門用語と、飼い主の感情に訴える表現が混在します。「グレインフリー」「ヒューマングレード」といった業界用語は比較的標準化されていますが、問題は感性に訴える部分です。

たとえば「愛犬が喜ぶ」「毛並みがツヤツヤに」といった表現は、言語や文化によって響き方が大きく異なります。直訳すると誇大広告と受け取られたり、逆に訴求力が弱まったりするリスクがあります。ターゲット市場の消費者がどのような言葉に反応するのか、現地の感覚を理解した上での表現調整が求められます。

② 規制対応と表示義務

ペットフードは国や地域によって表示規制が大きく異なります。成分表示の形式、原産国表記のルール、健康に関する効能表現の制限など、法規制を正確に理解した上での翻訳が必要です。

特に注意が必要なのが、「暗示的な効能表現」の扱いです。日本では許容される表現が、輸出先では薬事法や広告規制に抵触する可能性があります。翻訳者には言語能力だけでなく、各国の規制環境に関する知識も求められるのです。

③ カスタマーサポートと信頼構築

海外の飼い主から問い合わせが来たとき、迅速かつ適切な言語で対応できる体制があるかどうか。これは製品への信頼に直結する問題です。

特にペット関連商品では、「うちの子に合うか心配」「アレルギーがあるが大丈夫か」といった飼い主の不安に寄り添う対応が求められます。機械翻訳による定型文では、こうした感情的なニーズに応えることは難しいでしょう。

今回のPet Holidays社との提携においても、飼い主が「愛犬を飛行機に乗せる際、最も不安に思うのは愛犬のストレス」だと語られていたように、不安を解消するコミュニケーションがビジネスの成否を分けるのです。

「グローカル」な視点が成功のカギ

グローバルとローカルの架け橋

バイオフィリア社の事例が示しているのは、「日本のものづくりの強み」と「現地市場のニーズ」を結びつけることの重要性です。日本品質への信頼は確かに存在しますが、それを活かすためには、相手の文化や価値観を理解した上でのコミュニケーションが欠かせません。

アットグローバルでは、この考え方を「グローカル(Global × Local)」と呼んでいます。グローバルな視野を持ちながら、ローカルな文脈に合わせてメッセージを最適化する。翻訳・ローカライゼーションの本質は、まさにこの「架け橋」としての役割にあります。

ペット市場に限らない普遍的な課題

今回取り上げたペットインバウンドの事例は、一見するとニッチな分野に思えるかもしれません。しかし、ここで浮かび上がった課題——「日本の価値をどう海外に伝えるか」「異なる文化の消費者とどう信頼関係を築くか」——は、食品、化粧品、伝統工芸、観光など、あらゆる業界に共通するテーマです。

2025年に過去最高の訪日外客数を記録した日本。インバウンド需要の高まりとともに、「日本発・世界へ」という流れも加速しています。その中で、言語とコミュニケーションの重要性は、これまで以上に高まっているといえるでしょう。

まとめ:ペットツーリズムが示す多言語コミュニケーションの未来

バイオフィリア社とPet Holidays社の提携は、単なるペットフードの海外展開にとどまらない示唆を含んでいます。それは、「日本品質」を世界に届けるために、製品の力だけでなく、言語・文化を越えて価値を伝えるコミュニケーション力が不可欠だということです。

愛犬家が1年もかけて準備する日本旅行。その「5つ星の体験」を支えているのは、食の品質だけではありません。飼い主の不安に寄り添い、信頼を築くコミュニケーションがあってこそ、真のホスピタリティが実現するのです。

アットグローバルは、翻訳・ローカライゼーション・異文化コミュニケーション支援を通じて、日本企業のグローバル展開をサポートしています。「日本の価値を、世界に届けたい」——そんな想いをお持ちの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。

参考:株式会社バイオフィリア プレスリリース(PR TIMES)

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