難解な単語「credit」を解説③:ビジネス翻訳の舞台裏

credit

はじめに

前回は、翻訳の難しい単語”credit”を「信じる」「お金を貸す」という意味から考えました。今回は最後のひとつ「お金の移動元」という視点から”credit”を掘り下げてみましょう。

「貸方」のcredit

ここで考えたいのは賃借対照表(英語では”balance sheet”)です。経理や会計の仕事をしていないとあまり見る機会がないかもしれませんが、右側が貸方 (“credit"、略して"Cr.")、左側が借方 (“debt"、略して"Dr.") と呼ばれ、お金や商品がどう移動したかを記録したものです。賃借対照表の詳しい書き方は省略しますが、次のような例を考えます。

ある人が、友人から借りた銀20枚と自己資本の銀30枚で会社を興しました。

そして、商品のワイン3,000本を銀10枚で仕入れ、そのうち半分1,500本が売れ、銀15枚の売り上げになりました。すると、この表は以下のようになります。

借方 (debt)貸方 (credit)
現金銀 40 枚友人から借入銀 20 枚
ワイン銀 5 枚自己資本銀 30 枚
売上銀 10 枚収益余剰銀 5 枚

おや?借りたのは友人からの銀20枚だけだったはずなのに他のものまで借りたことになっています。当然、自己資金や収益余剰は借りた物ではありません。

表をよく見ると、貸方に記載されたものは外部から会社に入ってきたお金、借方に記載されたものは現在会社が保有しているお金であることがわかります。つまり、貸方”credit”はお金の移動元(from)、借方”debt”はお金の移動先(to)という意味になります。日本語で「貸」「借」を使っているから分かりにくいですね。

「返金」のcredit

さて、もう一つ考えたい例が「返金」です。これも例を挙げて考えてみましょう。

ある輸入業者が商品に不良品があることを発見しました。そこで販売元の輸出業者に連絡すると「では、クレジットノート”Credit Note”を発行します」と回答されます。クレジットノートは「いくら返金します」と約束する書類です。輸出業者は輸入業者にお金を貸すわけではありませんが、お金の移動元になっていますね。

スーパーのレジで打ち間違いなどその場で返金できる場合は”refund”, ”repay”, ”pay back”などが使われますが、オンラインショッピングのようにすぐには返金されない場合には”credit”が使われます。ただ、返金の方法には色々あるため翻訳には注意が必要です。

We will credit you with 1,500 yen to your card within 5 business days.

5 営業日以内に 1,500 円をお客様のカードに払い戻しいたします。

We will credit you with 1,500 yen to your account within 5 business days.

5 営業日以内に 1,500 円をお客様の口座にお振り込みいたします。

We will credit you with 1,500 points to your account within 5 business days.

補填として、5 営業日以内に 1,500 ポイントをお客様のアカウントに追加いたします。

We will credit you with a voucher for 1,500 yen that you can use at your next shopping.

次回のご購入時にご利用いただける 1,500 円分のクーポンをご提供いたします。

ここでポイントの話が出てきたのでもう一つ例文を取り上げます。

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今すぐ会員登録してください。8,000 マイルのボーナスを差し上げます。

単純にポイントを付与する場合でも”credit”が使われています。つまり”credit”は「返金」という意味ではなく、あくまで「お金の移動元」という意味で使われていることが分かります。印象としては「お金を移動する責任を持つよ」というニュアンスが含まれているようにも思えます。

まとめ

さて、ビジネス翻訳における難解単語”credit”を考えてきました。ビジネス用語としての”credit”には「お金の移動元」「お金を移動する」という概念があるものの、個別の取引には別の用語が使われたり、条件や状況により訳文を調整する必要があります。特に自分のあまり知らない分野では、適切に翻訳するのが難しいだけではなく、機械翻訳やAI翻訳の結果が正確かどうかを確認するのも難しいということになります。

翻訳ミスで重大な影響が起きかねないビジネス文書の翻訳には、機械やAIではなくプロの翻訳家の深く広い知識を活用していきたいですね。

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