難解な単語「credit」を解説①:ビジネス翻訳の舞台裏
はじめに
今回から数回に分けて、翻訳が難しい単語について取り上げていきます。取り上げる単語は”credit”です。なぜcreditは翻訳しにくいのでしょうか。
- 日本語の「クレジット」と英語の”credit”が必ずしも同じ意味でない
- 対応する語が多数存在する
- 扱われる分野によって意味が違う場合がある
- 翻訳ミスによる影響が重大になる
こういった単語を翻訳するためには、元の単語がどんな意味で使われているのかを正確に把握する必要があります。ではcreditがどんな意味で使われるのかを考えてみましょう。
日本語の「クレジット」
最初に、日本語で「クレジット」はどんな意味で使われているでしょうか。
一般的に思い浮かぶのはクレジットカードです。このクレジットは「信用・信頼」から「信用貸し・信用販売」の意味に訳されます。
他にも聞き覚えのあるクレジットには、映画のスタッフロールや著作権表示のことをクレジット表記、クレジットタイトルと呼ぶのを聞いたことがあることでしょう。
似た分野で、報道やマスコミでは、外電記事の提供元や、スポンサー表記のこともクレジットと呼ぶようです。
経理の分野では、賃借対照表の貸方のことをクレジットと呼びます。
金融の分野では、政府間で行われる借款をクレジットと呼びます。
日本語での「クレジット」の意味
- クレジットカード
- 信用、信頼
- 信用貸し、信用販売
- 著作権や情報の発信元、制作者の表記
- 賃借対照表の貸方
- 政府間の借款
英語の“credit”
では次に、英語の”credit”です。この単語は「信じる」という意味のラテン語の”L.credere”が語源で、元々は「信用されたもの」や「借りられたもの」といった意味で使われていました。その後かなり多岐にわたる意味を持つようになりました。現代英語での”credit”を英和辞書でひいてみると以下の意味があります。
英語での“credit”の意味
- クレジットカード
- 信用、信頼
- 信用貸し、信用販売、掛売
- 評判、名声、信望、名誉
- 功績、功績を認める
- 著作権、制作者の表記
- 賃借対照表の貸方
- 大学の単位
- 返金、返金の確約文書
- 購入ポイントの付与
日本語のクレジットとほぼ同じ意味に使われる場合もあれば、同じ分野でも若干違うニュアンスで使われる場合もあります。日本語「クレジット」=英語”credit”ではないことに注意しましょう。それぞれの分野でどう用いられているのか理解していないと正確に翻訳するのは難しそうですね。
“credit”の意味は大きく3つ
対応する言葉が多い単語creditですが、意味がどう派生していったのかを考えてみましょう。
①信用ー本来の意味「信じる」に近い考え
②貸すー①から派生して「信用してお金を貸す」という考え
③お金の移動ー②から派生して「お金を移動する」という考え
次回の記事からは、この3つの流れに沿って具体的な例を挙げてcreditの訳し方を見ていきます。
翻訳は「深く広い」知識が必要
翻訳には、単語の語源をたどるような深い知識と、様々な分野に通じた広い知識が必要となります。AIや機械翻訳が発達してきても完璧な翻訳が難しいのはこのような「深く広い」知識が求められるからですね。プロの翻訳家がどんなことを意識しながら翻訳しているのか、今後シリーズでお届けしますのでお楽しみに。