DeepLを翻訳のプロが検証!評判のAI翻訳ソフトの実力は?
DeepLというドイツ発の無料のAI翻訳ソフトの翻訳品質が「非常によい」と話題になっています。
インバウンドに携わる方々にとっては、気になるところでしょう。スピード感が求められる多言語展開のシーンに、機械翻訳はとても役立つものです。期待の実力派新人の登場は話題になっています。「自然な日本語の文体がすごい」というのがその人気の理由のようですが、実際、その実力や精度はどんなものなのでしょうか。今回は、その精度について、Google翻訳などほかの無料機械翻訳アプリと比較し、プロの翻訳者の目で検証してみました。
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DeepLとは?
2017年夏、言語のAIシステムを開発するディープラーニング企業DeepLは、無料の機械翻訳システム「DeepL Translator」を導入しました。DeepLは、ドイツのケルンが拠点で、2009年にLingueeとして設立されました。最近、国際ビジネスやインバウンドに関わる人たちの間で、「翻訳の品質が非常によい」「翻訳の文章が自然でこなれている」と評判になっています。
日本語と中国語の翻訳に自信あり!
DeepLブログの2020年3月19日の記事によりますと、DeepLは日本語・中国語の翻訳機能の向上にかなり力を入れていて、その品質に自信を持っています。ブログでは、DeepLとGoogleやAmazonの翻訳サイト・アプリとの比較結果のグラフが紹介されています。2020年3月に、どの翻訳サイトであるかを明らかにしないブラインドテストの状態で、日本語・中国語の翻訳者に、それぞれの翻訳サイトの性能を評価してもらいました。その結果、どの翻訳サイト・アプリよりも、DeepLの評判が圧倒的によい結果となったといいます。DeepL自慢のAI機能を駆使することによって、「自然な響きの文脈に適した言語を使用した翻訳を作成できるようになりました」ということです。
【実例】DeepLの実力を試してみよう
では、実際、その実力は?
高度な英語力が必要とされるニューヨーク・タイムズの、2020年5月5日の記事で性能をチェックしてみましょう。コロナウイルスに関する記事です。
以下は、原文です。アビガンを売りこみたい安倍首相と、トランプ大統領が期待する抗マラリア薬のせめぎあいについてリポートした、東京発の記事です。
「TOKYO — As President Trump was extolling the promise of a malaria drug in the desperate hunt for coronavirus treatments, one of his top global allies was selling the world on his own “trump card,” a pale yellow pill that he said could be crucial to fighting the pandemic.
This supposed beacon of hope is an antiviral medicine known as Avigan, and its most vocal proponent is Japan’s prime minister, Shinzo Abe.
Mr. Abe has pushed the homegrown drug in news conferences and in meetings with world leaders, including a call with Mr. Trump and the other heads of the Group of 7. He has allocated nearly $130 million to triple an existing stockpile of the medication. And he has offered to provide it free to dozens of other countries.」
Google翻訳を使用した場合
まず、Google翻訳の結果です。
カンマが多い最初のパラグラフで苦労しているようですね。一流紙の英文や小説の英文は、カンマで区切られたり、toでつなげられたりして長々と続き、後に続くワードやセンテンスがどの言葉を説明・修飾しているのか、見極めなくてはなりません。機械翻訳はこの部分が弱く、よく失敗しています。最初のパラグラフの最後の部分 crucial to fighting the pandemic が訳せていません。「流行病と戦うのに極めて重要な」といった意味です。
言葉にはいくつもの意味があります。desperate hunt の desperate を「絶望的」と訳していますが、ここでは「必死になっている」といった感じの言葉が適当です。機械翻訳は、いくつかある単語の意味のどれがこの文脈に適当なのか、「判断」を誤ることがしばしばあります。
カンマが少ない文章はほぼ的確に訳せています。
みんなの自動翻訳@TexTraを使用した場合
「みんなの自動翻訳@TexTra®」は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した自動翻訳サイトです。こちらでは、どんな訳になるでしょうか。
Google翻訳も同じ間違いをしていますが、one of his top global allies was selling the world on his own “trump card” の sell the world を「世界を売っている」と訳しています。しかし、ここでは、sell は「売り込む」「宣伝する」といった意味です。Google翻訳が訳せなかった最初のパラグラフの最後の部分 crucial to fighting the pandemic は、文節を上手に切って、ちゃんと訳せています。
Google翻訳も、この翻訳エンジンも、日本語の言葉のチョイスがぎこちなかったり、間違っていたりしているので、訳文は、全体的にこなれていない印象ですが、大意はつかめます。
DeepLを使用した場合
さあ、DeepLの場合は、どうでしょうか。
日本語の言葉のチョイスが良く、「開発に必死になっている」(desperate hunt)、「売りつけている」(sell)も、的確に訳せています。訳文も全体的に自然で、日本語としてこのまま使えるぐらい、こなれていますね。評判通りの高品質です。
しかし、冒頭のパラグラフは、省略されている部分が多く、不完全です。「切り札」(trump card)を説明している節 a pale yellow pill that he said could be crucial to fighting the pandemic.(流行病と戦うのにきわめて重要な淡黄色の薬)は、ばっさり省略されています。
最初の文 As President Trump was extolling the promise of a malaria drug in the desperate hunt for coronavirus treatments, を「トランプ大統領がコロナウイルス治療薬の開発に必死になっている中で」と訳していますが、ここにも省略が目立ちます。President Trump was extolling the promise of a malaria drug (トランプ大統領は、抗マラリア薬の可能性を絶賛していた)はどこにいったのでしょうか? ちょっと複雑な日本語ではありますが、「トランプ大統領が、コロナウィルス治療のために開発に必死になっている抗マラリア薬の可能性を絶賛している中で」と訳したほうがいいと思います。
わたしの経験では、DeepL は、隠喩に富み、訳出が難しい知的なアメリカンジョークをきれいに訳せたりしていますから、文章が長くなると対応できなくなる、ということかもしれません。
DeepLのライセンスの紹介
無料バージョン
DeepL の無料版は、現在、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ポルトガル語(ブラジル)、イタリア語、オランダ語、ポーランド語、ロシア語、中国語(簡体字)に対応しています。テキスト入力および文書のドラッグ&ドロップに対応しています。
有料バージョン(DeepL Pro)
ソフトウェアの開発者、早く正確な翻訳を必要とする企業などを利用者として想定しています。「入力したテキストはいかなる場合も保存されない」というセキュリティー面が、セールスポイントになっています。各種料金プランがあって、個人向けが、月額 5.99 ユーロからとなっています。
まとめ
どの翻訳エンジンも、年々性能が上がり、下訳として重宝しているインバウンド関係者の方も多いと思います。DeepL はそのなかでも優秀な多言語翻訳サイトで、内部で使うシーンなら、無料で迅速な翻訳ツールとしてかなり有望だと思います。
しかしながら、完全にミスのない翻訳ができるわけではありません。「この文脈では、どの訳語が適切か」「この文節の主語はだれか」といった「判断」ができるのは、人間、プロの翻訳者です。プロの翻訳がまだまだ必要です。正確で、クライアントの意を十分にくんだ翻訳をお望みなら、大手IT企業の翻訳者集団が立ち上げた株式会社アットグローバルに、ぜひ一度、ご相談ください。