難解な単語「but」を解説:ビジネス翻訳の舞台裏
はじめに
前回に引き続き、翻訳が難しい単語を取り上げていきます。今回取り上げる単語は”but”です。中学英語で習う単語ですが、翻訳が難しいと言われるのはなぜでしょうか。
- 色々な品詞になる
- 肯定の意味もあれば否定の意味もある
- 辞書的表現をネイティブは使わない場合がある
今回はいくつかの品詞と例文に加え、”but”がもつ本質的な意味と現代の用法を紹介していきます。
色々な品詞のbut
等位接続詞
butの代表的な品詞は接続詞(等位接続詞)です。逆説で等位の文や単語を接続します。
I didn’t go, but he did. ー私は行かなかったが、彼は行った。
名詞・動詞
あまりメジャーな使われ方ではないようですが、「意義」という意味の名詞、「しかしと言う」という動詞で使われる用法もあるようです。
副詞
副詞の”but”は「ほんの~だけ」と訳されます。”only”と置き換えられます。
He is but a child. ー彼はまだほんの少年に過ぎない。
関係代名詞
butそのものに否定の意味が含まれ「○○しない●●はない」という表現をするのに使われます。
There is no one but knows it. ーそのことを知らない人はいない。
前置詞/従位接続詞
「~以外の」と訳すbutです。butの前には”every”,”all”,”any”,”no”などの強い限定語が使われます。
All but he are present. ー彼以外は全員いる。
上の例文のbutは接続詞(従位接続詞)ですが、heをhimにするとbutは前置詞になります。ほぼ同じ意味になるのでここではひとつにまとめています。
単語だけではなく、句や動詞・形容詞に接続される場合は少し難しくなります。
I had no choice but to go there.
ー私はそこに行くこと以外の選択肢がなかった。=私はそこに行かざるを得なかった。
He looked anything but happy.
ー彼は幸せ以外何にでも見えた。= 彼はまったく幸せに見えなかった。
She did nothing but cry.
ー彼女は泣くこと以外の何もしなかった。= 彼女は泣くばかりだった。
このあたりになると直訳しただけでは意味が分からない場合も出てきます。文のニュアンスを正しく汲み取らなければ正しい訳文にすることができません。
butの本質は逆説
さて、文と文をつなぐ接続詞”but”の本質は「否定」ではなく「逆説」です。”but”が否定の意味を持ったり持たなかったりする例を考えてみます。これは”that”で置き換えられるのか”that ~not”で置き換えられるのかで区別できます。
主節が否定の場合
I do not doubt but he will come. ー彼が来ることには疑いがない。
=I do not doubt that he will come.
thatに置き換えるとnotは入らないため、butにはnotの意味合いが含まれていません。
主節が肯定の場合
No man is so old but he may learn.
ー勉強できないほど年をとる人はいない。=誰だって、年をとっても勉強はできるものだ。
=No man is so old that he may not learn.
今度はnotが入るためbutにnotの意味が含まれていることになります。
ただ、後者(主節肯定)の例文は辞書に載せられているのですが、ネイティブからするとこの用法は古語に近い表現のようです。言われてみるとこのタイプの用法は格言的な物が多く、言い回しが古い印象を受けます。現代英語では主節にかかわりなく否定であればnotを入れるのが自然です。
I studied the use of “but", but I couldn’t understand well.
“but" の用法について勉強したが、よくわからなかった。
まとめ
”but”の用法について色々と考えてきました。中学英語で習う単語でありながら色々な品詞として使われ、訳し方も多岐にわたります。翻訳を間違えると正反対の意味になってしまいますし、直訳文と意訳文で否定と肯定が入れ替わるものも多いため、翻訳の難しさに拍車をかけています。言語は時代と共に変化していくものですが、機械翻訳やAIではこのあたりをうまく対応できるようになっていくのか気になりますね。