日本語の条件表現をマスターしよう② どんな条件で使い分ける?
日本語の条件表現「と」「ば」「なら」「たら」について考えています。前回の記事では、使い分けに考慮すべき要素を取り上げました。
今回はさらに別の要素から、この4つの表現の違いについて考えていきます。
モダリティの制限
今回取り上げる要素の一つ目はモダリティです。言語学におけるモダリティとは、文中の「主観的表現」です。例えば、「しなさい」(命令のモダリティ)、「しよう」(意志のモダリティ)、「してください」(依頼のモダリティ)、といった具合です。
後件にモダリティを含む文の場合、使える条件表現に制限がかかります。
相手にメールが届いたかを確認したい場合を考えます。
×「メールが届くと、教えてください。」
×「メールが届けば、教えてください。」
×「メールが届くなら、教えてください。」
○「メールが届いたら、教えてください。」
この場合では「たら」以外では不自然な文になります。「なら」は上の例文では「メールが受け取れるのであれば」という意味にもとれますが、これは「なら」に特有の時間表現が関わってくるので次回以降で詳しく取り上げます。
このように正しい条件表現には、後件にモダリティを含むかどうかが大きな要素となります。
レジスターの違い
次にレジスターについて考えます。ここでのレジスターは、「書き言葉」と「話し言葉」の違い、と言い換えても問題ありません。書き言葉のような形式的な表現はレジスターが高く、話し言葉に近いほどレジスターは低くなります。つまり、文章がどこで、どうやって、誰に対して使われるのかによって表現に違いが出てくるのです。次の例文を考えましょう。
「ここをクリックすると、ホームページが開きます。」
「ここをクリックすれば、ホームページが開きます。」
「ここをクリックしたら、ホームページが開きます。」
全て日本語としては正しい表現ですが、「と」>「ば」>「たら」の順番でレジスターが高い、つまり書き言葉寄りの表現です。使われるのが印刷物やメールなどの文章であれば「と」、映画や動画の字幕などでは「たら」のほうがふさわしいかもしれませんね。
どれも正しい日本語ではありますが、状況によってふさわしい表現は変わってくるということです。
翻訳家に求められる表現
さて、ここまでは文法的に正しい表現について様々な要素を考えてきました。最後に取り上げる要素は翻訳家に特有の要素です。それはクライアントの好みの表現があるという事です。例えば、次の例文で正しい日本語なのはどちらだと思いますか?
「メールが届きましたら、ご連絡ください。」
「メールが届いたら、ご連絡ください。」
本来、敬語は最後だけに付ければ良いといわれているため、下が正しい表現です。ですが、最近では上の表現も普通に使われますし、お客様向けの文章ではあえて上の文を希望するクライアントもいます。前件に丁寧語が無ければ自然な日本語でも、丁寧語にすると不自然になる表現があるのです。
○「運動しますと、健康になります。」
×「運動しますなら、健康になります。」
『正しい文章』が必ずしも『求められる文章』であるとは限らないということですね。
まとめ
前回と今回では、表現の違いに関係する要素を見てきました。プロの翻訳家には「意味が通じる」以上の事が要求されるため、様々な要素を考慮に入れる必要があります。
次回からは「と」「ば」「なら」「たら」の4つの表現を一つずつ詳しく取り上げ、それぞれがどんな場合に使われて、どんな場合に使われないのか、それぞれの特徴を深く掘り下げていきます。