日本語の条件表現をマスターしよう⑤ 「なら」を上手に使う

日本語の条件表現「と」「ば」「なら」「たら」について考えています。前回までで「と」「ば」を考えてきました。「と」は恒常条件、「ば」は仮定条件のニュアンスが強く出る表現でした。うまく使い分けることで、少ない文字で正確なニュアンスを伝えられます。

今回は「なら」について考えます。

「なら」の特徴

条件の種類

「なら」が使われるのは仮定条件のみです。恒常条件や確定条件には使われません。

仮定条件「外が真っ暗なら、懐中電灯を持って行きなさい」

現実と非現実

前件は後件の行動をするための判断基準となる場合、前件は基本的に現実的な事になります。

時間と焦点

「なら」には、前件の方が後件より時間的に後になる場合があるという独特の特徴があります。

「痩せたいのなら、運動しなさい。」

上の例文では、運動が先、痩せるのが後になります。
焦点は前後であまり差がないようにも思えますが、後件のほうに若干重みがありそうです。

モダリティ

後件は必ず命令、意志、希望、依頼のモダリティを持ちます。

×「コンビニに行くのなら、ポテチを買います。」
○「コンビニに行くのなら、ポテチも買っていこう。」

レジスター

レジスターは低めです。「ならば」「のなら」などの派生表現がありますが、どれも文章より会話でよく使う表現です。
助動詞は丁寧語への変換ができないので、前件への丁寧語は使えません。

「なら」の注意すべき用法

「なら」は断定の助動詞「だ」の仮定形です。つまり、「〜だ」と繋げられる文にしか繋げることができません。この繋ぎ方ができるのは、名詞か形容動詞であり、動詞や形容詞は使うことができないことになります。
ですが、現代の用法では慣用的に動詞や形容詞に「なら」を付けることがあります。

「コンビニに行くなら、ポテチも買ってきて。」
「コンビニに行くのなら、ポテチも買ってきて。」

実は上の例文は「動詞+なら」のため厳密には正しくありません。下の例文「のなら」が正しい日本語となります。ですが、日本人の一般の会話では「の」が抜けたり「んなら」で代用されたりします。
また、以下のような「名詞+なら」の用法には、話の主題を仮定する働きがあります。

「今なら、3割引きです。」
「当社の製品なら、耐用年数が長いですよ。」

「なら」のまとめ

「なら」の用法は仮定条件の一本です。モダリティを持つことや、前件が時間的に後になるといった他にない特徴がありますが、これらは他の表現でも代用できます。

「コンビニに行くのであれば、ポテチも買ってきて。」

文法的に制約が多く、不正確な慣用表現もあるため、少々扱いにくい表現です。翻訳案件の場合、同一文書内で表現を統一させるため一律で使わないという選択肢もあるでしょう。

「ば」の特徴

では前回と同じようにそれぞれの要素から「ば」を使うのがふさわしい場合を考えてみましょう。

条件の種類

前件が仮に成立した場合、それを条件として後件が成立する表現(仮定条件)。

「雨が降れば、試合は中止される。」

前件を条件として、後件が常に成立する表現(恒常条件)。

「雨が降れば、地面が濡れる。」

前件が既に成立しているものとして、後件を説明する表現(確定条件)。

「これだけ雨が降れば、水不足にはならない。」

「ば」は仮定条件のニュアンスが強めです。未成立の出来事に対しての仮定、もしくは原因や理由を説明するといった意味合いが強く出ます。

現実と非現実

非現実的な事や、現実かどうかわからない事にも使うことができます。

○「明日槍が降れば、行かない。」(非現実的な仮定)
○「現地で雨が降っていれば、タクシーに乗る。」(現実かわからない仮定)

逆に、未成立の事柄を仮定するという性質上、現実的な事や確定済の事柄では使えない場合があります。

×「枕を変えれば、眠れるようになった。」

時間と焦点

物事の理由や根拠、きっかけを強調する表現ですので焦点は前件にあります。前件に対して後件は時間的に後のことになります。こう見ると「と」との差があまりないように見えますが、以下の2文で微妙にニュアンスが変わることがわかります。

「この問題が解決すると、プロジェクトは軌道に乗る」
「この問題が解決すれば、プロジェクトは軌道に乗る」

上の二つの例文を比較してみると、「ば」を使用したほうが問題の解決が重要だというニュアンスが表せます。

モダリティ

前件の述語が動作の場合、後件に命令、意志、希望、依頼は使えません。

×「メールを受信すれば、教えてください。」

前件の述語が状態の場合は上記のモダリティを使うことができます。

○「寒ければ、窓を閉めてください。」

レジスター

レジスターは中程度です。書き言葉として使ってもほぼ違和感はありません。

○「ここをクリックすれば、ホームページが開きます。」

前件に丁寧語を使うことはできません。

×「メールが届きませば、手続きは完了です。」

「ば」のまとめ

仮定色が強い文脈、原因や理由を説明する文脈では、「ば」がニュアンスをうまく表現できます。
また、後件にネガティブな内容が来る場合にはあまり使われません。

○「食べ過ぎると、具合が悪くなります。」
×「食べ過ぎれば、具合が悪くなります。」

「と」と「ば」は似ている表現ですが、恒常条件が強い場合は「と」、仮定条件が強い場合は「ば」と、うまく使い分けることができれば表したいニュアンスを一文字で表すことができますね。

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