危機?メコン川の今を探ります
はじめに
皆さんは「ハングリーウォーター」を知っていますか? 聞きなれない言葉ですが、不純物が含まれていない水で川の水が澄んでいることを指す言葉です。大いに水が澄んでいて良いと考えがちですが、現実はその逆なのです。
記事ではメコン川を例にその理由を考えます。
メコン川とは
メコン川をご存じでしょうか?
メコン川はタイ、ラオス、ミャンマー、カンボジア、ベトナムの5各国を通過する東南アジア際超の河川で、長さは4350㎞にもなります。(世界で12番目に長い河川です。)
メコン川には巨大ナマズなど多種多様な生物が存在していて、この5つの国に住む人はメコン川からの魚を食料としていたり、川の水を生活用水に使ったりしていて、川の近くに住む人にとって必要不可欠な存在になっています。
メコン川に住む生物は、大きく分けて2種類存在します。
流れの速い上流では、ドジョウ、ナマズが多く、下流部ではメコンオオナマズ、ハモが生息しています。
昔はよくみられていた生物でも治水や乱獲によって絶滅危惧種になってしまった生物も多く存在しています。(例:メコンイルカ、カワウソ、スナドリネコ)
また逆にここ数年新しく見つかった新種もあり、メコン川にはいろんな生物が生息していることがわかります。
メコンデルタとは、メコン川がと流れる地方のことを指し、ベトナムのメコンデルタはベトナムの西南部に位置していて、12の省が含まれています。
ベトナムのメコンデルタに属している12省
ベトナム語でメコン川のことをĐồng bằng sông Cửu Longと言います。
ロンアン省、アンザン省、ドンタップ省、ティエンザン省、キエンザン省、ヴィンロン省、ベンチェ省、チャーヴィン省、ソクチャン省、ハウザン省、バクリエウ省、カマウ省がメコンデルタに属しています。
メコンデルタに住む人は特にメコン川からとれる魚や自然の恵みを多く得ています。
ベトナムの南部で有名な観光地で知られているメコン川クルーズに行ってみると、水上マーケットや家など日常生活が水面で繰り広げられていることがわかります。
水が澄むと悪いの?
澄んだ川で子供が楽しむことを訝る人はいないと思いますが、実はそうも言っていられない事態が進展しているようです。
一緒にメコン川を例に考えましょう。
水は重要で健康に暮らす為に十分な水が必要です。逆に言えば、私たちの生活は水の有無、また水の質に大きく左右されます。
メコン川は雨が降らず干ばつを起こすときや、特定の季節には洪水が起きたりします。このような自然な水の増減は魚や水鳥のすみかを作ったりするのに欠かせないことです。また洪水は農業に必要な養分を含む堆積物を下流へと運ぶ重要な役割を果たしています。
この自然な水の増減が自然の生態系を支えていますが、ダムの建設や魚の乱獲、砂の採掘などが理由で生物の生存に直接影響を与え始めています。
人口ダムが増えてきたため、干ばつ時には特別処置としてダムの放出が行われ人工的に川の水をコントロールすることになります。
上流にある中国には11基のダムがあり、ラオスには数百基もの水力発電所が建設されています。この治水と発電をしようとする働きが、下流にあるタイやベトナムには大きな影響を与えています。川の水量が減ることで南シナ海に流れるはずの川水が少なくなり、海からの塩分濃度が高い海水が川に逆戻りしています。そうすると塩分濃度が高すぎて下流地域の稲作が育たなくなったり、上類にあるダムのせいで水がさえぎられ水不足になったりします。
ダムの開発時に魚の遡上を助ける水路や養分を含む堆積物を下流に流す仕組みになるように開発されていますが、実際にダムが稼働し始めると、濁っていている川で知られているメコン川が、下流では水量低下で栄養分も減少していることから鮮やかな澄んだ青色に変わり始めています。流域の土壌を豊かにしてきた堆積物が川の水に含まれていないのが原因です。
川水が濁っていると汚いと思う人いるかもしれませんが、濁っているのは水中に養分が含まれている証拠なので、その濁っている水が濁らなくなるのはそこに住む生物にとって致命的なことです。川の水量の減少は捕れる魚の量も減少に繋がります。
川の色が変わる状態は「ハングリーウォーター」と呼ばれています。
水が澄む「ハングリーウォーター」の何が問題なのでしょう?
ハングリーウォーターの原因は、流域の土壌を豊かにしてきた堆積物が川の水に含まれていないことです。
泥を含まない水は流れが速く力が大きく川岸を激しく侵食して大きな被害をもたらす可能性があるとされています。また土壌中の養分が含まれていないので大きめの魚が取れなくなり、人々の暮らしに異変も見られるようになりました。
特に川の中に藻が大繁殖してしまうようになります。淡水の中に藻類が存在すると、魚などの水生生物はより生存しにくくなってしまいます。
また、放出する水の量が取り込む量よりも少ないせいで、水量が圧倒的に減ったことから、ダム稼働後数週間であっという間に透明な水の下では藻が繁殖して川の色が変わっています。そして、メコン川とは思えない程に変わってしまったことが注目されています。
様々な原因?
現在のメコン川になるまでいろんな原因がありますが、主な3つの理由は…
①ダムの建設
②過剰な砂の採取
③生物の乱獲
その結果、タイでは水が不足し、カンボジアでは魚が捕れず深刻な食糧不足になり、ベトナムでは下流の勢いが足りず海水の逆戻りが問題になっています。
それよりも、乾季や干ばつになると全ての人の日常生活に支障を与えています。川の水が減ることで生活に必要な水が手に入らないことから、水を販売しにトラックが水を運んでくるのですが、その水は浄水されないまま販売されるので、下痢や皮膚疾患などの病気を起こしています。
まとめ
田舎育ちの私は子供の頃、川で泳いでいると、沢山の魚とぶつかるような経験をしていました。澄んだ川は相当遠くまで見えて、水中眼鏡を通して見える少し歪んだ水の中の景色が大好きでした。透明度は違っても、きっとメコン川と共に暮らす人々もこれまで川がもたらす様々な恩恵にあずかってきたに違いありません。今、以前の事を思い出し昔はよかったと考えているかもしれません。人々を養うメコン川が大河としての威厳を取り戻せることを願って止みません。
メコン川の問題は、メコン川が流れる5つの国に関係する問題なので、どこかの国が単独で解決することはできないので、一致して解決するしかないです。自然は賜物でもともと環境に恵まれていると、当たり前と思いがちですが、限りのある自然を守っていく必要が人類全ての使命だと筆者は考えます。