医療ツーリズムについてこれだけは知っておこう

インバウンド需要

はじめに

医療の進歩と高齢化に伴い、多くの人が健康と美容を保つことに関心を持っています。自国にない高度な医療を受けるために、他の国に行く「医療ツーリズム」が注目を集めています。

「先進医療」を受けられる国への旅行ツアーはたくさんあり、医療ツーリズム産業に力を注ぐ国は増えています。日本でも新たなインバウンド需要として見込まれています。ここでは、その実例と、さまざまな対応例についてご紹介します。

医療・メディカルツーリズムのおさらい

医療ツーリズムとは、外国の医療サービスを受けることを目的にした旅行のことです。観光目的ではなく、自国にない高度な医療を受けることを目的としたツーリズムのことです。

病気やケガなどの治療の他に、健康診断、美容と健康の増進を目的としたものも医療ツーリズムに含まれています。 ストラテの過去の記事「『メディカルツーリズム』とインバウンド対策」でも詳しく取り上げていますので、ご覧になってください。

              

医療ツーリズム産業を国家戦略としている国もあります。それらの国では、多くの外国人を受け入れるための手続きを緩和しているところもあります。比較的日本から近い国では、タイやシンガポールが積極的に行っています。日本の場合は認定病院が増えているものの、全国で76箇所にとどまっています。

日本の医療ツーリズムは、すこし出遅れていると言えるかもしれません。日本は世界に誇れる高度な医療技術を持っています。今後日本の病院が外国人受け入れ体制を整えていけば、医療ツーリズムによる経済効果を見込めるでしょう。

実際、すでに高度な医療技術を期待して来日する外国人は増えています。この需要に応えることができるよう病院のシステムを確立していけば、来日する人たちはもっと多くなり、“医療鎖国” と思われていたイメージが変わってゆくことでしょう。

貴方のイメージは?

では、日本の医療ツーリズムはどのようなイメージを持たれているのでしょうか。

もしかすると、コーディネーターやコンシェルジュが付くなどの高級なイメージを持たれているかもしれません。または、富裕層の人たちだけのものと思われているかもしれません。

ですが、最近はリーズナブルなサービスが増えてきています。富裕層のためのサービスではなく、一般の人たちも利用できるものに変わってきています。日本の医療ツーリズムには、「ウェルネスツーリズム」や「ワクチンツーリズム」も含まれています。徐々に、外国人への医療サービスの多様化が進んでいます。

ウェルネスツーリズム

最近は、美容や健康に重点を置いた「ウェルネスツーリズム」が増えてきています。これは、病気の治療に重点が置かれているものではなく、健康状態を改善するための医師のアドバイスや施術を通じたサービスを受けるというものです。より健康で長生きしたいという願い、QOLの向上を目指す意識の表れでしょう。

ワクチンツーリズム

世界的大流行となった新型コロナウイルスですが、このパンデミックにより「ワクチンツーリズム」という新たなツーリズムが生まれました。

日本国内ではワクチン接種がかなり進みましたが、新型コロナワクチンが不足する国や地域は未だたくさんあります。国によって、ワクチン接種率の格差が大きいことはニュースでも大きく報じられています。今後、ワクチン接種は年1回のペースで行われていくのでは?という見解もあります。もしかすると、ワクチンツーリズム市場の拡大に繋がるかもしれません。

タトゥーから重粒子線治療まで

東京オリンピックに参加したアスリートの多くが、タトゥーを入れていました。医療ツーリズムをもっと広げて見てみると、タトゥー目的の訪日はウェルネスツーリズムに含まれるかもしれません。

入れ墨は、何百年もの歴史をもつ日本の伝統技術です。長い間倦厭されてきたのですが、最近はこの状況が変わりつつあります。外国人の中には、機械ではなく手で彫っていく日本独自の伝統技術に魅了されて来日する人が増えています。           

国土交通省観光庁は、「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」を出して、タトゥーを入れている外国人旅行者への対応の緩和を提案しています。

また、日本には、世界に誇れる最先端医療「重粒子線治療」があります。

重粒子線治療とは、文字通り重粒子(炭素イオン)を使った放射線治療です。正常な細胞に害を与えないようにしながら炭素イオン線でがん病巣だけにダメージを与える、切らずに治すがん治療です。この治療法は体への負担と副作用が少なく、施術後の社会復帰も早い優れた医療です。

今後も需要が見込まれる分野だが・・・

先進医療や美容医療は、今後の需要拡大が見込まれている医療ツーリズムです。しかし、残念なことに、コロナの流行によって日本に渡航できない事態が続いています。日本国内でも病院の逼迫が続いていて、本来予定されていた手術が延期になるという事態に陥ってしまいました。

英国の某調査会社によれば、世界の医療ツーリズムの市場規模は約198億米ドル、前年に比べて48%減少したとのことです。かなり低迷していることが分かります。

現在医療ツーリズムの進化版として注目されているのが、ITオンラインでの治療です。オンラインで患者さんの状態について聞き、病状を把握し、丁寧に対応することはできます。ですが、対面治療に勝るものはないのが現実です。

医療ツーリズムは、病気の治療という目的だけでなく、精神的なケアも求められるかもしれません。需要が高い分野ですが、受け入れ側の体制を整えることが必要です。

医療ツーリズムの問題点にも目を向けてみよう

医療ツーリズムは、さまざまな問題点も浮き彫りになっています。例えば臓器移植の場合、必要な臓器をどのように入手するのかという問題に直面します。対応がとても難しい問題ですので、WHOは海外渡航移植をやめるよう求めているという報告もあります。 

また、医療ツーリズムで必要となる医療ビザの手続きが非常に複雑であるという問題もあります。この点は、日本医師会により指摘がなされています。

現在医療ツーリズムで治療を受ける外国人は、全額自己負担です。富裕層は高額でも支払えますので、受け入れ病院側は大きな収益が得られます。ですが、あまりに大勢の外国人を受け入れることになると、日本人の治療が後回しになるという問題が生じてしまいます。

また、医療ツーリズムを運営する企業がこのツーリズムを積極的に推進すると、国民皆保険制度(公的医療保険)の保険外併用療養(混合診療)の全面解禁を進めることになります。これは国民皆保険制度の保険給付範囲を縮める結果を招き、大きな弊害を生み出すでしょう。医療ツーリズムを推し進めるメリットは大きいのですが、収益に関する新たな問題に直面してしまいます。今後これらの課題が改善され、良いところに落ち着いてほしいものです。

まとめ

医療ツーリズムの需要が伸びていけば、日本国内での医療ツーリズム認定病院も増えていくに違いありません。自国にない先進医療を受けることができ、コスト面でも納得のいくものなら、多くの外国人が日本での治療を望むでしょう。病院に行く移動手段が、バスや電車から“飛行機”に変わることになるかもしれません。

日本の医療ツーリズムが、グローバルな見方とホスピタリティの精神を持って発展してゆくことを願います。世界の人が健康になるのは喜ばしいことです。「医療ツーリズム」の発展が大きな経済効果を生み出すことができるのであれば、受け入れ体制を整えてゆくことが求められます。

医療ツーリズムを含めた観光業界が復活すること、一日も早くコロナが終息することを願っています。

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