日本の農業技術が世界を救う?!

(カバー写真:Rawpixel.com

近年、地球温暖化などに起因する気候変動の影響を受け、世界的に農作物の安定供給が難しくなってきています。

最近ではカナダで起きた水害などが原因となって世界的なポテト不足が起き、マクドナルドが一時マックフライポテトのM ・ L サイズの販売を休止したというニュースが日本でも話題になりました。こういった事件も受け、近年農作物の安定供給が世界的なテーマとなっています。

そんな中、今注目を集めているのが日本の農業技術。昔から台風などの災害に見舞われてきた日本の農業技術は世界的に見ても進んでおり、技術の輸出が期待されています。

そこで今回は、いくつかの将来性を持つ農業技術について取り上げていきます。

砂栽培

「砂栽培」とは、その名称通り砂漠のような環境下で野菜を育てるというもので、連作障害が起きづらく、また培地を腰高に設定できるので作業負担を軽減できることなどが特徴です。

今から40年前に農業戦略研究家の城野宏氏によって初めて成功し、その後九州大学の福島栄二教授などの手で確立されていきました。

今、この砂栽培を用いた画期的な農業方法が注目を集めています。

東レが開発した画期的な砂栽培農場施設「トレファーム」

「トレファーム」は東レ建設株式会社が開発した高床式砂栽培の農場施設です。農業施設というと田舎で広い農地を使って行うイメージを持ちますが、トレファームはそうではありません。

トレファームでは専用ビニールハウスに設置した高床式の砂栽培プラントで作物を育てます。設置場所は必要スペースがあればどこでもよく、駐車場や空き地などはもちろん、傾斜地や高低差のある土地などでも可能。都市部や土壌の質に問題のある地域・国などでも利用可能な農業パッケージとなっています。

ビニールハウスというと台風に弱いイメージがありますが、そこは建設会社の面目躍如。これまでに培ったノウハウによって強固な構造を実現しており、台風などの自然災害にも強い耐性を持っています。

トレファームの最大の特徴はIoT技術が組み込まれた高度な自動潅水システムにあります。このシステムがあることで遠隔地からスマホで簡単に液肥管理ができ、作業者の負担を大幅に低下させることが可能です。まさに新時代の農業のカタチと言える画期的なシステムといえるでしょう。

また、トレファームは砂栽培ならではの「連作障害が発生しづらい」「高床式なので作業が楽」「特別な農具が不要」「培地の処分がいらない」といった特徴もあります。このおかげで、初心者も熟練者も、若年者も高齢者も、誰でも簡単に農業に臨めるというメリットがあります。

栽培可能な作物も豊富で、水菜などの葉野菜はもちろんのこと、ニンジンなどの根野菜、メロンなどの果物も栽培できます。

トレファームのさまざまな活躍

トレファームはさまざまな取り組みを行い、少しずつ活躍の場を広げています。

例えば「UR都市機構」との連携を通じて、福岡県宗像市にある日の里団地の整備に尽力。子どもから高齢者までの人々が農業に触れ合える、地域一帯型のコミュニティを形成させることに成功させました。

また「誰でも簡単に農業ができる」という点を生かし、社会福祉施設と連携して障がい者就労支援施設として活用する事業も開始。施設職員と一緒になって障がい者が社会生活を充実させる手伝いを行っています。

さらに、新たな取り組みとして「仕事付き高齢者住宅」の提案を行い、平成30年には経済産業省によって「健康寿命延伸事業」として採択されました。現在は神奈川県の社会福祉法人と連携して実現を目指しています。

ほかにも、2017年からはトレファームの特徴のひとつであるIoT技術を利用した「シェアリング農業」にも着手するなど、農業の可能性を示すさまざまな取り組みを行っています。

世界の農業を変える可能性も

前述してきたように、トレファームの方式なら設置場所の環境は大きな問題となりません。作物が育ちづらい乾燥地帯や土壌の質が悪い場所などでも簡単に作物を収穫できます。

発展途上国などでは違法森林伐採などが原因で砂漠化が進行している国も珍しくはありません。こうした砂漠化した土地にトレファームを導入すれば、役に立たなかった土地を有効利用することができるだけでなく、新たな雇用を創出することで違法な森林伐採に歯止めをかけることもできるかもしれません。

また、天候にほとんど影響を受けず安定生産が可能なトレファームが普及すれば、新鮮な野菜が安定的に消費者に届くようになります。都市部などにも設置が進む様になれば、流通がさらに多角化して安定が進むだけでなく、近年問題視されている「人と農の関わりの薄さ」の改善もつながるはず。

世界的に持続可能性が求められ、農業の在り方が見直され始めている昨今、もしかするとトレファームが世界の農業の在り方を変えてくれる存在となるかもしれません。

参照:東レ建設株式会社HP

コンテナ型植物工場

農業ベンチャーの取り組み

近年、成長市場として注目を集める東南アジアに農業ベンチャーが相次いで進出しています。

そんなベンチャー企業のひとつである「ファームシップ」は、自社で研究開発したコンテナ型植物工場をシンガポールに展開。カスタマイズ性の高いコンテナ型のモジュールが特徴で、独自開発した生育用特殊LEDを完備しているほか、温度や湿度、養液濃度、CO2濃度なども管理できるので、効率的かつ安定的に高品質の作物を収穫できます。

富士市には同社が運営する世界最大級の完全人工光式植物工場もあり、さまざまな農業技術ノウハウを集積しています。今後はシンガポールを拠点として東南アジア各国に拠点を増やしていく計画を立てているとのことで、動向に注目が集まっています。

また、同じくシンガポールに進出を目指している農業ベンチャーに「ハッピークオリティ」という企業もあります。

同社は現代に即した農業事業創出の取り組みとして、人工知能(AI)を活用したトマト栽培システムの開発。トマトの葉の状態などから自動でAIが生育状態を判断し、適切なタイミングで適切な量の潅水を行うことで糖度の高いトマトを生育させることを実現しました。

今後は現地に即した栽培法を研究し、海外展開の可能性をさらに広めたいとしています。

参照:あなたの静岡新聞

自動潅水制御システム

農研機構の取り組み

農研機構は、かずさDNA研究所と株式会社テックスと連携し、土壌水分を任意に制御する世界初の自動潅水システム「ポットシステム(iPOTs)」を開発しました。

引用:農研機構

このシステムでは生育ポット側面から潅水することで、従来の潅水システムとは一線を画した高度な水分制御することができます。そのため、これまでは難しかった屋外の農地を屋内でも再現が可能で、幅広い作物の栽培ができるのが大きな特徴。さらに、365日完全無人で栽培管理が行えます。

また、自然界で発生する干ばつを屋内で再現することが可能なため、干ばつや土壌荒廃などの不良環境下における作物開発の研究に繋がることも期待されています。

世界的な気候変動による被害が広まっている今こそ必要な技術として、今後さらなる注目が集まることは間違いないでしょう。

参照:農研機構

おわりに

日本は「ガラパゴス」などと揶揄されることもありますが、ガラパゴスの日本には独自の面白い発想が生まれるという良い面もあります。

日本の長い歴史の中で集積された農業技術と新時代のイノベーションが今後どのように融合し、そして世界の環境課題に挑戦していくのか目が離せません。

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