外国人サイクリストを誘致しよう!しまなみ街道から「サイクルツーリズム」を学ぶ

2022年9月5日

はじめに

近年、新しい観光の形としてサイクルツーリズムが注目されています。多くの日本人にとって、自転車は通勤・通学などの日常生活でなじみ深い乗り物ですが、世界ではポピュラーな旅行・観光手段です。能動的な体験を望む外国人からの需要が高まっており、SDGsや健康管理の目的にも適しています。

瀬戸内海(せとないかい)にあるしまなみ海道は世界から33万人が訪れ、サイクルツーリズムに成功した場所です。瀬戸内海の事例から、道の整備、レンタサイクル、地域の観光業との連携など、外国人の満足度を上げるための成功の秘訣を学びましょう!

「サイクルツーリズム」とは

サイクルツーリズムとは、「自転車で生活圏外を走ること」です。近年買い物や見学だけでなく、体験型のアクティビティを好む訪日観光客が増加しています。そうした傾向を受けて、政府は観光に自転車を取り入れることで外国人誘致を行おうとしています。ここでは、自転車が持つ可能性や地域活性化との関連について解説します。

サイクルツーリズムの市場規模が拡大

サイクリスト国勢調査2018によると、サイクルツーリズムの国内の市場規模は2018年時点で年間約1256億円となっています。自転車ユーザーは目的別に「日常の移動」、「健康増進」、「旅行等の移動」、「ツーリング」、「サイクリングイベント参加」、「レースイベント参加」の6つのタイプに分かれます。「日常の移動」タイプが半数を占めていますが、旅行先での消費意欲はあまり高くありません。

訪日観光客ではどうかというと、数年前からサイクリング需要が高まっています。以前は日本の道路は狭くて雑然とした印象を持たれることが多かったのですが、最近では交通マナーの良さ、美しい景観、道の安全性が広く知られるようになりました。中国経済産業局の調査によると、瀬戸内海の訪日サイクリストは日本人サイクリストと比べた場合、高い消費意欲があることがわかりました。日本人の旅行予算は半数以上が2万円未満ですが、外国人では平均が28万円となっており、さらなるインバウンド消費が期待できます。

ヨーロッパやオーストラリアを中心に、世界ではサイクリング観光やサイクリングバケーションが文化として根付いており、日本への誘客ではより一層の拡大が見込まれます。

国のサイクルツーリズムのための取り組み事例

外国人からの需要増を受けて、国交省を中心に様々なサイクルツーリズムを推進する取り組みが行われています。2017年に施行された自転車活用推進法に基づき、地方自治体や企業や民間団体等と共に積極的に自転車を活用していこうというものです。

オールジャパンでの取り組みを「GOOD CYCLE JAPAN」と呼称し、主に「環境」「健康」「観光」「安全」という4つの分野で整備を進めています。国交省では、国際サイクリング大会の支援、公園等のサイクリングロードの整備・活用の促進、簡単に自転車を輸送するためのサイクルトレイン等の実施拡大や、「ナショナルサイクルルート」の創設などに取り組んでいます。

しまなみ海道がインバウンドに成功したワケ

しまなみ海道は、日本有数のサイクリングロードとして世界的に有名です。尾道(おのみち)駅から今治(いまばり)駅までを結ぶ複数のルートで構成されており、一年を通して温暖な気候で海や島々を繋ぐ橋、柑橘の畑が見える風景などを楽しめます。また、コースの整備・レンタサイクル制度の充実・宿泊施設との提携など、サイクルツーリズムのお手本のような存在です。

ここでは特にインバウンド成功の秘訣について解説します。

自然の力+自治体の力で成功

しまなみ海道には、6つの島を橋でつないで海を渡る自転車道があり、これは世界に一つしかない大変珍しい場所です。しまなみ海道がある瀬戸内海は、昔から外国人の乗組員に景色のすばらしさを絶賛されてきました。周辺の風景の良さから、一度目はそのまま通り過ぎても、その景色を味わうために二度、三度とまた来てくれるリピーターがたくさんいます。

世界にその存在が広く知られる契機になったのが、2014年に開催された瀬戸内しまなみ海道・国際サイクリング大会です。開催による経済効果は、6億円以上とも言われています。31の国・ 地域から参加があり、海外の旅行者が増えるきっかけとなりました。

それを地域活性化につなげるために地域住民によって作られた新しい仕組みが「しまなみサイクルオアシス」です。サイクリストのためのサービスステーションで、2011年から地域のお寺や土産物屋、食堂等が軒先を提供し、青空空間の休憩所を作る取り組みが行われています。

参考:公益財団法人日本交通公社「インバウンドの視点から見た自転車旅行の可能性」

https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2016/03/H27kouza-kougiroku-8.pdf

住民目線の開発で成功

しまなみ海道でのこうした取り組みでは、住民目線が最も大切にされています。地元の方が無理のない範囲で支えることができれば、継続的な活動ができると考えられているからです。また、地元の方が気づかないその地域ならではの良さを海外旅行者の視点で教えてもらうことで、地域振興のモチベーションアップにもつながり、旅行者は現地の人々とコミュニケーションを楽しめるという良いサイクルが生まれます。

サイクリストの多くは、日本の原風景をたどることを楽しみの一つとし、国道から脇道へと入ることを好みます。ゆっくりとしたサイクリングで、ミカン畑や港、橋などの風景や人々の暮らしを味わうことで旅行の満足度が高くなります。地域のそのままの姿を見せるサイクルツーリズムは、新たな投資をせずに他の地域でもできるので、大きな可能性が広がっています。

外国人向けサイクルツーリズムを目指す自治体の課題

日本人サイクリストに人気のスポットでも、外国人サイクリストにとっては不便に感じ、もっと改良してほしいと思う点があります。インバウンドを目指すには、こうした課題に向き合っていく必要があります。また、今までサイクリングに特化していなかった地域でも、取り組みを開始することでインバウンド拡大を見込めるかもしれません。北海道を例に考えてみましょう。

地域連携でおもてなしを

北海道のサイクルツーリズムにおける課題の一つが、「地域連携の仕組みづくり」です。例えば、レンタサイクルの乗り捨てシステムの構築や「オール北海道」での情報発信、複数の地域をまたぐ多様なコースの設定等が挙げられます。 サイクリング観光では長距離を移動することも多く、レンタサイクルの乗り捨てもより広い範囲で考える必要があるからです。

また、情報発信の窓口の一元化も大切です。サイクリストは計画を立てる時に、最初に北海道、次に具体的な地域の情報を調べると想定されるからです。商工会議所連合会を中心に、サイクリングに関する受け入れ環境の整備やPRの面で連携を図り、北海道が一丸となって観光客の誘致を行っています。こうした広域連携の取り組みは、他の地域でも取り入れることができそうです。

参考:北海道開発協会「来道外国人観光客によるサイクリング観光の振興に向けて」

https://www.hkk.or.jp/kouhou/file/no606_gyousei-5.pdf

輸送・レンタルのシステム構築

サイクルツアーを楽しみたい訪日客にとって、日本国内での自転車の輸送は頭の痛い問題です。電車の場合、持ち込めても鉄道各社が定めるルールに従って輪行(りんこう:自転車を分解して運ぶこと)する必要があるからです。その負担を減らすために登場したのが、自転車を車両内にそのまま持ち込んで移動できる「サイクルトレイン」です。

さらにバスでは輪行も難しかったのですが、分解してトランクに積載する「サイクルバス」の導入が始まっています。地域がこうした対策をするためには、バスや電車の規則の改定や、手軽なレンタサイクルの仕組み作り等をする必要があるでしょう。

まとめ

全世界的にサイクルツーリズムが注目されており、しまなみ海道は訪日サイクリストのニーズを満たすルートとして知られています。地域の持つ強みをいかしてサイクルツーリズムを広めることで、住民にとってもポジティブな効果をもたらすことがわかりました。

日本全国で様々な特色のサイクリングロードが生まれ、さらなるインバウンドの拡大につながることを願っています。

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