コロナウイルス対応の優等生―ベトナムの感染状況と経済への影響は?

ベトナム, ベトナム語

英国の市場調査会社ユーガブ(YouGov)が発表した、世界26の国と地域で実施した新型コロナウイルス感染症に関する国民意識調査の結果によると、ベトナム国民は世界で最も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する危機意識と政府に対する信頼度が高いことが分かりました。

5月4日時点で、国・地域別の回答者のうちベトナムは89%の人が「新型コロナウイルス感染を危惧している」と回答し、調査対象国・地域の中で最も国民の危機意識が高いという結果になりました。また、97%の人が「新型コロナウィルスに対する政府の対応がとても良い・良い」と回答し、こちらも調査対象国・地域の中で最も政府に対する信頼度が高いという結果になったことが分かります。

すでにベトナムに進出している会社や、今後ベトナムに進出することを考えている日系企業は多くあります。このコラムでは、在ベトナム日本国大使館が公表している情報(https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona_information.html)を中心に、ベトナムの新型コロナウイルスの感染状況(2020年5月13日時点)と、ベトナムが実施した対策についてレポートします。また、ベトナム経済が直近で受けている影響と今後の見通しについても提示します。

ベトナムの感染者数

5月13日現在のベトナム国内の新型コロナウイルス感染者数は、合計288人で5月7日から増加していません。そのうち回復者数は252人で、感染者数全体の87%が回復・退院しました。隔離・治療中者数は36人で、これまでに新型コロナウイルスによる死者は出ていません。ベトナムでは、海外からの入国者を除く国内での新規感染は27日間続けてゼロ人となっています。ベトナムの感染者288人のうち、海外からの入国者が148人と半数以上を占めています。

ベトナムのコロナウイルス対策

これまでのベトナムでの新型コロナウイルス感染症の拡大防止策で代表的なものをここで取り上げます。

感染予防に関するガイドラインの発表

ベトナム保健省は3月13日,「アパートでのCOVID-19感染予防と制御に関する17のガイドライン」を公表しました。このガイドラインでは、エレベーターの中や階段で、会話をしないように勧めています。また、毎日の体温測定、疑う事例があれば直ちにアパート管理者に通知すること、保健省や地元保健当局の情報を常に確認し、感染症の状況についての不正な情報を宣伝しないこと、感染症例・疑わしい症例・自宅での隔離の事例がある場合には、アパートの管理者の指示に従うことなどが含まれています。

「アパートでのCOVID-19感染予防と制御に関する17のガイドライン」を以下に掲載します。

(1)家に帰ったら,すぐに石鹸ときれいな水で手をよく洗う。

(2)袖,タオル,ハンカチ,ティッシュで咳やくしゃみをするときは,鼻と口を覆う。 使用後はタオルを洗うか,すぐにティッシュをゴミ箱に入れる。ごみは所定の場所で処分する。

(3)手で目,鼻,口に触らない。唾を無差別に吐き出さない。

(4)塩水又はうがい薬で良くうがいする。

(5)体を暖かく保ち,運動習慣をつけ,熱を通したものを飲食し,栄養のバランスを確保する。

(6)仕事,外出,人混みからの帰宅後,すぐに着替えてその衣類を洗濯する。

(7)エレベーターや階段を使用する場合,それぞれの表面との直接接触及び人々との会話を制限することを推奨。

(8)人混みへ行くのを制限し,人混みの中ではマスクを着用する。

(9)咳,発熱,息切れの症状がある人との接触を制限する。接触する場合は,2メートル以上の距離を保ち,マスクを着用する。

(10)通常の洗浄液で毎日自宅の環境を掃除する。 特にドアノブ,階段の手すり,スイッチなどを定期的に消毒する。

(11)家の換気を行う。ドアや窓を定期的に開ける。エアコンの使用を制限する。

(12)ゴミを毎日収集し,指定された場所に処分する。

(13)自己健康管理及び毎日の体温測定を行う。 発熱,咳,のどの痛み,息切れの兆候が見られる場合は,マスクを着用し,人との接触を制限する。 ホットラインへ電話し,アドバイスを受けて,検査と治療のために最寄りの医療施設を受診する。

(14)健康管理又は隔離の必要がある疑い事例があれば,直ちにアパート管理者に通知する。

(15)保健省の公式ウェブサイト(https://ncov.moh.gov.vnhttps://suckhoedoisong.vn),地元の保健当局のCOVID-19感染流行に関する情報を常に更新する。感染症の状況についての不正な情報を宣伝しない。

(16)地元の保健機関,マンション,アパートにおけるCOVID-19感染予防と制御に関する規制を厳守する。

(17)感染症例,疑わしい症例,自宅での隔離の事例がある場合は,マンション,アパートの管理者の指示に従う。

外国人の入国制限

ベトナム政府による入国制限について、時系列順に紹介します。

外国人のベトナム入国に関して

3月18日午前0時から、ベトナムに入国する者に対するビザ発給を停止しました。同時刻から、査証免除の者、ベトナム系の人や親族訪問者に対する査証免除書の保有者、その他特別な場合(例えば、専門家、企業管理者、高技能労働者)については、在住国の権限を持つ機関が発行する新型コロナウイルス感染症が陽性ではないとする証明書を持ち、かつ、この証明書に関するベトナムによる承認を得なければ、入国できなくなります。上記の措置は、外交、公用目的のために入国する者に対しては適用されません。

入国者の隔離

3月21日午前0時から、ベトナムに入国するすべての国・地域の者に対して、集団隔離が実施されます。

日本に対する査証免除措置の停止

3月21日12時から、日本に対するビザ免除措置が停止されます。

全外国人のベトナム入国停止

3月22日より、すべての外国人の入国が禁止されました。この時点以降、一般の方がベトナムに入国することは不可能になりました。

国際線の運航について

3月22日以降の外国人入国禁止とともに、隔離施設の容量確保のため、外国からの航空便は最大限制限されています。ベトナム航空は3月23日から日本便を停止、また3月25日から全ての国際線の運行を停止しました。

現在の状況

1.現在、ベトナム政府は、外国人の入国を禁止しています。専門家、企業管理者、高技能労働者については、新型コロナウイルスにかかっていない証明書を提出した場合には、入国を認めることとしていますが、日本国内の状況から当該証明書を入手することが難しく、事実上、ベトナムへの入国は極めて難しいです。
 
2.仮に入国できても、自宅や居住地での14日間の隔離が義務づけられています。(省・市によっては、集中隔離を求める場合や入域を拒否する場合があります。)
 
3.自宅・居住地隔離期間中は、生活必需品や食事等については、自分で手配しなければなりません。

新型コロナウイルス感染症対策のためのハノイ市とホーチミン市の罰則

ハノイ市では、新型コロナウイルス感染症対策としてソーシャル・ディスタンシング(社会距離拡大戦略)の情報周知に努めるとともに、マスク投棄や不要不急の外出に罰金を科すなどして行政処分を徹底しています。

最高で2000万ドン(約9万円)の罰金が科され、ケースによっては刑法が適用される可能性もあります。

また3月4日から市内の各ルートに人員を配置して、不要不急の外出を取り締まっており、実際に罰金が科された例もいくつか報告されています。

ハノイ市人民委員会司法局は、新型コロナウィルス対策として、以下の罰則を適用することを発表しました。主なものを抜粋しています。

(1)公共の場でマスクを着用しなかった者:最大30万ドン(約1400円)の罰金
(2)公共の場、道端や路上に使用済みマスクをポイ捨てした者:最大7百万ドン(約3万2千円)の罰金
(3)自分又は他人の新型コロナウイルスの感染を隠した者:最大2百万ドン(約9000円)の罰金
(4)公共での飲食サービスの休止措置を遵守しなかった個人及び団体:それぞれ最大1千万ドン(約4万5千円)と2千万ドン(約9万円)の罰金
(5)公共の場での集会制限又は商業サービスの休止措置を遵守しなかった個人及び団体:それぞれ1千万ドン(約4万5千円)と2千万ドン(約9万円)の罰金
(6)感染地域を出入りする前に行う医療検査・観察措置を遵守しなかった者:最大2千万ドン(約9万円)の罰金
(7)隔離施設からの脱走、隔離に関する規定の不遵守、隔離・強制隔離措置の拒否:最大1千万ドン(約4万5千円)の罰金
(8)インターネット上にデマ情報を投稿した者:最大1500万ドン(約7万円)の罰金
(9)上記(7)の者や医療申告を不誠実に行う者が他人に感染させた場合、上記(8)の場合等には、刑法の適用もあり得る

また、ホーチミン市でも、医療分野での行政違反に対する処罰の規定に基づき、緊急事態が宣言されている地域での多数の人々の集会を禁止する決定を遵守しなかった組織および個人に、最高3000万ドン(約14万円)の罰金を科す場合がある。

新型コロナウイルス感染予防を促進するための歌

ベトナム保健省傘下の労働環境衛生研究所が感染防止のための手洗いや消毒の大切さをうたうために、「嫉妬したコロナさん(Ghen Cô Vy)」という新型コロナウイルス対策の歌を制作しました。

この歌は、2017年にリリースされた人気曲「嫉妬(Ghen)」の替え歌で、陽気なメロディーにウイルス予防対策の歌詞をのせて、動画付きで子供にも分かりやすく、ユーモラスに紹介しています。

この歌は、米国のケーブルテレビ局「HBO」の日曜夜放送のニュース風刺番組「ラスト・ウィーク・トゥナイト・ウィズ・ジョン・オリバー(Last Week Tonight with John Oliver)」の新型コロナウイルスのニュースを扱うコーナーで紹介され、世界中に知られるようになりました。

現在、この歌は英語版も正式にリリースされています。

ベトナム経済が受けている影響

ベトナムの経済の中心地、ホーチミン市の状況を中心にお伝えします。

ホーチミン市観光局によると、新型コロナウイルス感染症による影響で、1-3月期中に、ホーチミン市内のホテルなどの宿泊施設で働く従業員約2万8000人のうち、1万9587人が無給休暇、830人が離職を余儀なくされました。これは全体の73%で、とても大きな影響を受けていることが分かります。

また同市教育訓練局によれば、新型コロナウイルス感染症による影響を受け、市の教育施設で働く教職員4万1722人が無給休暇や離職を余儀なくされています。ベトナムの教育施設では、1月に2019-2020年度の前期が終了してからテト(旧正月)休みに入り、テト明けからは約3か月間にわたり新型コロナウイルス感染症対策として休校措置が適用されていました。そんな中、公立の教育施設にはある国からの資金配分を受けられず、オンライン学習も難しい、私立の幼稚園は特に苦境に立たされています。

前述のとおり、ベトナム政府は3月15日より全ての外国人に対する到着ビザ発給を一時停止しました。さらに3月22日からは全ての外国人のベトナム入国を一時停止しました。その影響で、ホーチミン市で活動する中小規模の旅行会社の90%が窮地に追い込まれ、臨時休業を余儀なくされています。これらの措置は観光業に大きな打撃を与えており、旅行会社にとって今後も一層厳しい状況になるものと予想されています。

ホーチミン市企業協会(HUBA)が会員企業を対象に実施した調査によれば、21%が「5月末までは凌ぐことができる」、12%が「6月末までは凌ぐことができる」、12%が「9月末までは凌ぐことができる」と回答した一方で、「年末まで凌ぐことができる」と回答した企業は全体のわずか2%程度に留まりました。

さらに労働傷病兵社会省によると、2020年年初4か月の全国の失業者数は67万人で、4月だけで27万人が労働契約を解除されました。4月中旬の時点で労働者約500万人が新型コロナウイルス感染症により打撃を受けていると統計総局(GSO)も明らかにしました。また、ホーチミン市税務局の統計によると、同市では年初4か月に前年同期比+54.82%の1523社が解散したほか、1万8000以上の自営業者が事業停止または休業に追い込まれました。

今後の見通し

新型コロナウイルス感染症対策として実施されていた社会隔離措置が緩和され、ベトナムは日常生活の風景を取り戻しつつあります。

5月4日には、ハノイ市で路線バス運行会社に対し通常運行に戻すことが許可されました。ホーチミン市では4日に路線バス72路線の運行が再開されましたが、11日からはさらに22路線を増やし計94路線を運行していて、これは通常の運行頻度の80%になります。また、新型コロナウイルス感染症対策として実施していた公共交通機関におけるソーシャルディスタンス(社会的距離)に関する制限も、5月7日0時付で全面的に解除となりました。ただし、交通運輸省は感染予防に向けて、駅やバスターミナルおよび移動中でのマスク着用、サービス利用時の健康申告と検温、アルコール消毒による手洗いを続けるよう、運輸サービス業者に対し要請しています。

不要不急の業種についてカラオケとディスコを除き営業再開を認められたことを受け、ホーチミン市内では5月9日からバーや映画館、スパなどが一斉に営業を再開しました。営業再開が許可されたのは、コンベンションセンター、ビューティーケア施設、美容整形クリニック、スパ、マッサージ店、サウナ、娯楽施設、映画館、劇場、バー、ビアクラブ、インターネットカフェなどで、人が集まる会合の開催や宗教施設での儀式の再開も可能になりました。全市では引き続き、アルコール消毒による手洗いを徹底させるほか、公共の場や公共交通機関でのマスク着用を義務付けています。

ベトナム航空は新型コロナウイルス感染症の影響により運航便数を大幅に削減していましたが、ベトナム国内で感染症の流行が効率的に制圧されていることを受け、国内観光と往来需要の刺激に向けて国内線の運航を段階的に再開・増便していき、6月からの全面的な運航再開を目指すとしています。しかし、3月23日より全区間が運休になっているベトナム~日本路線の定期便に関しては、ベトナム政府と日本政府による外国人の入国制限措置も継続されていることから、6月30日まで引き続き運休することが決定されました。(※今後、状況により予告なしに変更となる場合もあります)

新型コロナウイルス感染症で甚大な影響を受けた観光業ですが、観光省は新型コロナウイルス感染症収束後に国内各地への旅行を奨励するため、観光刺激プログラム「ベトナム人は国内旅行を」を実施します。観光地の入場料値引きなど旅行需要を刺激するための具体的な支援策が実施されます。また、ベトナムが適切な対策により新型コロナウイルス感染症を効率的に制圧していることを世界的に報じるとともに、ベトナムが「安全な旅行先」であると世界にアピールすることの必要性が、観光業の復興策を討議するビデオ会議で示されました。海外からの観光客の受け入れについては10-12月からの再開を目指すとされています。

社会隔離措置が緩和され、不要不急の業種とされていた各業種の一部営業再開が認められたことから、今後、経済活動は徐々に通常の状態に戻されていくことと思われます。しかし今後も、依然として公共の場や公共交通機関でのマスク着用や手洗いの徹底、不要な外出自粛などの感染防止対策が求められるなど、引き続き新型コロナウィルス感染予防に努める必要がありそうです。

まとめ

ベトナムの新型コロナウイルス感染者数は、世界各国の数字と比べて非常に良好な結果だと評判されています。4月23日から社会的な隔離は基本的に解除されましたが、ベトナム政府と国民は最高レベルの警戒を継続しています。このようなたゆまぬ努力と迅速な対策により、ベトナムは新型コロナウイルスに勝利し、これからは人々の生活と経済の回復・発展に傾注することが可能になると期待されています。

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