ベトナムの教育マーケット事情2021年版(前編)

ベトナム

はじめに

「第4次産業革命」による教育現場へのEdTech導入が各国で進められるなか、日本では、人口の減少などによる市場の縮小が懸念されています。しかし、それとは対照的にベトナムは人口が増加し、特に若年層の人口比率が高いことから、今後のマーケット拡大に大きく貢献するだろうというのが大方の予想です。

ここでは、ベトナムの教育マーケット事情を前編・後編に分けてお届けします。今回は、政府が打ち出す教育制度改革と教育市場の概要について、詳しくご紹介する前半部です。ベトナムの社会的慣習に根付いた特有の教育事情と国家的な施策とがどのように連動し発展を遂げるのか、日本とは異なる教育マーケット事情にビジネス・ニーズを掘り起こすヒントが隠されているかも知れません。

ベトナムの教育の特徴は?

出典:JETRO

ベトナムの義務教育は10年間

ベトナムの18歳から29歳人口の大学進学率は28.3%。短大まで含めた日本の進学率58.6%やタイの43%、マレーシアの48%と比べてまだ高いとは言えません。その背景には、都市部と農村部での教育格差が大きいことが上げられます。小学校までの就学率に都市部と農村部での大差はありませんが、中学以降格差は広がり、高校では都市部76.4%に対し農村部64.4%となっています。

ベトナムは教育法を2019年に改正し、義務教育期間を小学校5年間と中学校4年間、それと就学前の5歳児教育1年間を加え計10年間とし、教育分野への公的資金支出を拡大しています。小学校入学時には5歳児教育の修了証が必須となるため、都市部での5歳児就学率はほぼ100%に達しています。

理数科への偏重と早期英語教育の導入

国際的な学力到達度調査PISA(OECDが15歳を対象に3年毎に実施)2015年の調査では、ベトナムの科学的リテラシーは70カ国中8位(525点)、読解力は 同32位(487点)、数学的リテラシーは 同22位(495点)と、OECDの平均、またはそれ以上を獲得しています。また、ベトナムの教育が理数科系に特化して力を入れていることが窺えます。

政府の教育方針は?

国の教育政策

ベトナムでは教育法に「教育の発展は国の最優先政策」と謳われているように、外国語と情報技術の強化、教員の質の向上、教育のデジタル化が国の教育政策の柱です。なかでも注力しているのは、外国語教育に特化した「外国語教育学習プロジェクト」です。小学校3年生以降の12年間で、すべての生徒が外国語を学習できる環境を整えることを2025年までの目標に掲げています。また、教員の学歴条件を引き上げたり、小中学校におけるオンライン授業を必須とする施策を推進したりと、教育水準の向上と環境整備に努めています。

出典:JETRO

インダストリー4.0に対応可能な人材育成

さらに政府の目標として、インダストリー4.0に対応できる人材の育成を掲げています。そのために情報技術と英語を重要分野として、小学校1年生から週2コマの英語教育を実施する計画です。英語の強化プログラムでは、ネイティブ教師が英語で数学、科学、英語の3科目を教えています。コンピューター学習は、小学校3年生から必須科目とする方針を実施する方針を打ち出しています。ただし、ここでも都市部と地方での格差が生じており、実情として、人材や設備を整備できない学校があるようです。

大学入試はどうなっている?

公立普通中学校(高校)の卒業試験が大学入試

ベトナムの15歳~17歳までが就学する普通中学校は、日本の高等学校に相当。全国統一実施の高校卒業試験に合格して高校卒業となりますが、それを公立および私立の大学の入学試験としています。試験は最低4科目。数学、文学、外国語は必須科目で、残りは選択となり、物理・化学・生物学・歴史・地理から選べます。この試験結果に高校3年次の成績などを加点し、各大学が設定した基準に達すると合格できます。

ベトナムの塾事情

学校の教師が夜間に開講している私塾を中心に学習塾が開かれていますが、都市部ホーチミン市ビンタン区の高校1年生~3年生が塾に通っている割合は81%(ベトナム教育紙調査結果)。居住地域による教育費にかける金額の格差は大きく、ホーチミン市を含めた東南都市部は北部山岳地方の3.3倍に達します。

この差は学習塾への支出額の差であり、そのまま世帯収入の差です。二人っ子政策が実施されてきた経緯により特殊出生率2.1人であることを踏まえると、夫婦共働きで就学者2名の1世帯あたりの教育費は、世帯収入のおよそ14%を占めます。家計に占める教育費の割合は、収入最下位20%のグループで20.5%、収入最高位20%のグループで13.2%。収入が低くなるほど家計への教育費の負担が大きくなっているのが現状です。

ベトナムの教育費は?

ベトナムの公立学校は学費や教科書代が有償なうえ、校舎の修繕費や設備購入費も就学家庭から徴収する仕組みになっています。そのため、設備が整備された都市部ほど教育への負担額が大きくなっていますが、逆に地方部では設備が整わない学校もあるようです。

就学者一人当たりの年間教育費の平均額は、約3万600円(2018年)。公立の年間教育費で約2万6,000円、 私立では約9万7,000円です。世帯から支出される教育費の割合は、年々増加する傾向にあります。

ベトナムの教育マーケットの今後は?

ベトナムのEラーニング市場は2019年で2100億円、44.3%の成長率となり、世界で最も成長している10市場の一つとされています。2023年までに市場規模は3150億円が予想されます。2018年のベトナムのスタートアップへの総投資件数は92件で、投資総額は約933億円。うち、EdTech分野のスタートアップへの投資額は約56億7,000万円で、2016年の2.7倍に伸びています。

期待高まる教育マーケット

15歳以下のベトナムの人口は増加傾向にあるため、将来的に就学人口も増加していくことが予想されます。EdTechのエコシステムは始まったばかり。企業のための教育プラットフォームや学校管理システム、統合教育モデル、新形式の学校モデルなどへの参入企業もなく、カリキュラムの作成、各学校・コースの検索比較もほぼ手付かずのままです。

今後、スマートボードやAI、VRなどの機器が学校に導入され、Eラーニング市場、EdTech市場が大きく成長する一方で、公立学校の予算は限られ短期的には苦しい財政状況でやりくりしなければならないといった課題も見られます。長期投資を必要とする教育分野において、たとえユーザーが多くても個人が支払う教育費には限界があり、スタートアップにとっては売上と利益両面での難しい課題が残されます。

まとめ

ベトナムは、人口の増加とともに高いGDP成長率を維持し、将来的に有望な市場として海外から注目されています。東南アジア国々のなかでも親日国であることから、今後、日本からも多くの企業が参入することでしょう。教育マーケット参入のスタートアップとしてさまざまな分野での機会投入が期待できます。

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