観光公害 スマートな対応例とは?海外、国内の事例

オーバーツーリズム

京都の舞妓さんへの迷惑行為など、いま話題となっている観光公害(オーバーツーリズム)。インバウンド誘致が成功して、多くの観光客が来てくれるのはうれしいことですが、集中・混雑すると、さまざまな問題が生じてきます。国内外の観光公害に対する対策例をご紹介します。

観光公害(オーバーツーリズム)とは

 観光客の集中により発生する諸問題を指します。世界各地の有名な観光地で発生しています。日本でも、世界から観光客が集中する京都・鎌倉で社会問題となっています。日本総研の主任研究員、高坂晶子さんは、論文「求められる観光公害(オーバーツーリズム)への対応 ─持続可能な観光立国に向けて─」https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/10798.pdfのなかで、観光公害の具体例として、渋滞 、混雑、ゴミ処理、騒音、悪臭 、自然や景観の損傷、 環境汚染、植生・生態系の変容・破壊、建物・遺跡の破損 や落書き、治安の悪化、ギャンブル、麻薬、民家の庭などへの立入り、プライバシー侵害(のぞき等)などを挙げています。観光客にとっても地元住民にとっても大きな問題で、インバウンド先進国スペインのバルセロナでは、反観光客デモまで起きました。

観光公害(オーバーツーリズム)海外の対応例

エベレストの事例

一か所への集中を分散させよう、というのが、この問題の解決策の基本です。ネパールのヒマラヤでは、世界最高峰のエベレストで、ごみや水質汚染などの環境破壊が深刻となり、周辺の未踏峰への入山を解禁しました。入山を許可制にし、入山料も取るようにしました。エベレストのような稀少性の高い観光資源は、いったん傷つけられると修復が非常に難しく、清掃も困難です。高坂研究員は「限られた登山者であっても、慎重な管理が必要」と指摘しています。

バルセロナ、ヴェニスの事例

 記者はこのほど、観光公害への対策の先進地とされるバルセロナ、ヴェニスを訪れました。バルセロナでは、観光施設の建設のために家賃が上昇し、住めなくなった住民が、コミュニティーの崩壊危機を訴えるなどしていますが、世界から観光客が集中するガウディのサグラダファミリア教会の見学には、事前予約が必要です。入場開始時刻を分散させ、観光客が集中しないようコントロールしています。

 ヴェニスでも生活環境の悪化に住民が不満を募らせていて、市内を清潔、安全に保つのにかかる経費を賄うため、今夏から「訪問税」を徴収しています。税額は季節変動し、記者は1日3ユーロ払いました。ホテルスタッフに「訪問税の領収書をパスポートにはさんで、常に携行してください。時々、訪問税を払っているかどうか尋問されますよ」とアドバイスされました。この税による収入は、年5000万ユーロ(約63億円)だといいます。

パラオの事例

 西太平洋のパラオでは、入国前に、すべての旅行者に「パラオプレッジ( Palau Pledge )」という環境保護の誓約文への署名を義務づけています。パスポートにスタンプが押され、そこにサインします。最大の罰金は100万ドルになります。スマートでユニークな取り組みとして国際的に評価され、世界三大広告大賞であるカンヌのライオンズ国際クリエイティビティ・プログラムのグランプリを受賞しました。

ブータンの事例

 ブータン政府は、1970年代の外国人観光客受け入れ開始以来、公定料金によるパッケージツアーだけに観光ビザを発給しています。1人に対し、ハイシーズンには1日200ドル、ローシーズンには1日165ドルが課されます。また、外資系高級ホテルを誘致し、富裕層に多く来てもらえるよう工夫しています。

観光公害(オーバーツーリズム)日本の対応例

富士山の事例

富士山を管轄する山梨県、静岡県では、五合目から先に入る登山者に、任意の「富士山保全協力金」を支払ってもらっています。トイレの新設・改修などの富士山の環境保全対策、救護所の拡充などの登山者の安全対策などに使われています。渋滞するほどの登山客の混雑ぶりに、UNESCOは「信仰の山としてふさわしくない」などとして、入山者の抑制を求めてきた経緯が背景にあります。

知床五湖( 北海道)の事例

 2008年、世界遺産に登録されました。観光客の歩行場所を指定するなどして、野生動物の保護に努めています。指定区域への立入りを事前許可制にしたり、1日当たりの人数の上限を決めたりしています。ヒグマの活動期には、専門の有料ガイドをつけることも義務としています。この取り組みは、詳細なデータ分析と関係者の綿密な連携によって行われていて、UNESCOからも「知床方式」として高く評価されています。

京都、鎌倉の事例

 京都では、渋滞・路上駐車、白タク行為などのため混雑し、住民が市バスを利用しにくい状況になっています。騒音、ゴミ捨て、民家への立ち入りやのぞき、落書き、賽銭箱への外貨投入、芸舞妓へのいたずらや執拗な写真撮影も話題となりました。観光客が動く時間帯を分散させるために、「京で食べる朝ごはん」キャンペーン、「夜観光」キャンペーン(川床・鵜飼など)、早朝・夜間公開( 二条城、仁和寺ほか)、東山や嵐山に集中している観光客を周辺に誘導するため、高雄や鞍馬、三千院、伝統産業や酒蔵見学のキャンペーンにも力を入れています。紅葉の名所について、新緑の美しさを訴えるプロモーションもみられます。(日本総研・高坂晶子主任研究員まとめ)。

 住民が江ノ電を利用しにくい、などの混雑被害が出ている鎌倉では、ゴールデンウイークに、江ノ島電鉄線の沿線住民に、鎌倉駅へ優先入場させる社会実験が行われています。

観光公害の解決策とは?

 観光公害の対策には、観光客の心証を傷つけないように、ビジネス面での配慮が求められるため、かなり難しい問題であり、究極の解決策はまだ見つかっていないようです。観光客にモラルの遵守をどう訴えていくか、引き続き考えていく必要がありそうです。

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