ベトナムの生活習慣病を打破するために!

はじめに

日本では高齢化が進み、国民の健康維持と医療費削減が大きな課題となっています。そのため健康づくりや疾病予防に力を入れ、お薬手帳アプリのようなツールを使った健康管理を進める等の対策をしています。しかしなかなか浸透しないなどまだまだ改善すべき点は多いようです。

一方、経済成長を続けるベトナムにおいても国民の健康への関心は変化してきています。今回は、ベトナム国民の健康および平均寿命と、ベトナム政府が進める新たな取り組みをご紹介しましょう。

ベトナムの生活習慣病の現状

2019年時点では、ベトナムにおける死因の8割以上が非感染症によるもので、その主な内訳は、心血管疾患(39.5%)、がん(15.9%)、呼吸器疾患(6.2%)、神経症(4.9%)、糖尿病(4.7%)および消化器疾患(4.6%)となっています。これらの非感染症には、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの日常生活における習慣が深く関わっており、それらが発症の要因となるため生活習慣病とも呼ばれています。

ベトナムの平均寿命は?

世界保健機関WHOが発表した世界保健統計(World Health Statistics)によると、ベトナムの平均寿命は1980年には67歳程度でしたが、2019年時点には75.4歳となり、東南アジアではシンガポール(83.2歳)に次いで2番目の長寿国となっています。

ちなみに余談にはなりますが、世界で平均寿命が最も長い国は日本で84.3歳です。また、アジアでランキング上位の国は韓国(83.3歳)で世界ランキング3位、東南アジアトップのシンガポール(83.2歳)は世界ランキング4位です。

ベトナムの平均寿命が伸びた理由

ベトナムの平均寿命が伸びたのはなぜでしょうか?

理由としては、近年の急速な経済成長を背景に、医療提供体制の整備や公衆衛生の向上、賃金の上昇に伴い生活や健康状態が変化したことなどが挙げられます。また、1980年代までは死因の6割近くを結核や寄生虫による感染症疾患が占めていましたが、1990年代から感染症による死亡率は急激に低下し、生活習慣病をはじめとした非感染性疾患による死亡率が上昇していることも、大きな要因と言えるでしょう。

健康対策に取り組むベトナム政府

人々の健康を改善するためには、国民の健康に対する意識を高め、行動を変え、病気を未然に防ぐ必要があります。そうした考えからベトナム政府も対策に乗り出し、2018年には全国キャンペーンとして「ベトナムの健康」(首相決定No.1092/QĐ-TTg)を発表しました。このキャンペーンによって、平均寿命の延伸、QOL(クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life))の向上に向けた取り組みが開始されました。

「ベトナムの健康」キャンペーン

このキャンペーンでは、2018年から2030年までの期間を対象に、優先分野として以下の3つのグループに分けられた11の分野に焦点が当てられています。また、それぞれの分野では2025年と2030年までに達成を目指す具体的な目標が定められています。それらもあわせて紹介します。()無しが2025年までの、()内が2030年までの目標です。

1. 健康の改善

(1)適切な栄養の確保
   1. 栄養失調で発育不全の5歳未満の子供の割合を20%以下(15%以下)に減らす
   2. 肥満の成人の割合を12%以下(10%以下)に管理する
   3. 18歳の若者の平均身長を男子167cm(168.5cm)に、女子156cm(157.5cm)に上げる
   4. 野菜や果物をあまり食べない大人の割合を50%(45%)に減らす
   5. 塩分消費量/人/日を8グラム以下(7グラム以下)に減らす
(2)身体活動の強化
   6. 身体活動が不足している人の割合を18〜69歳の人25%(20%)に、13〜17歳の子供60%(40%)に減らす

2. 健康保護と病気の予防

(3)タバコによる健康被害の予防
   7. 成人男性の喫煙率を37%(32.5%)に下げる
   8. 受動喫煙率を家で50%(40%)に、職場で35%(30%)に下げる
(4)アルコール、ビールによる健康被害の予防
   9. 成人男性の危険なレベルの飲酒を39%(35%)に減らす
(5)環境衛生
   10. きれいな水を使用できる世帯の割合を農村で75%(90%)に、市街地で90%(95%)に増やす
   11. 衛生的なトイレを使用できる世帯の割合を農村で85%(100%)に、市街地で95%以上(100%)に増やす
   12. 食べる前、トイレに行った後、石鹸で手を洗う人の割合を50%(70%)に増やす
(6)食品の安全性
   13. 2011年から2015年の平均と比較して、30人以上がかかる食中毒の件数を10%(20%)に減らす
   14. 食品の安全性について正しい知識と経験を有する食品生産者、加工業者、貿易業者、管理者、消費者の割合を90%(95%以上)に増やす
   15. 食品安全基準を満たす食品の生産、加工、取引施設の割合を90%(95%以上)に増やす
(7)子供と学生の健康管理
   16. 予防接種率を2025年までに12種類のワクチンで95%以上に、2030年までに14種類のワクチンで95%以上に拡大させる
   17. 学生のために栄養価の高い学校給食を提供する学校と寮の割合を保育所で70%(90%)に、小学校で75%以上(100%)に増やす
   18. 視力低下が発見され、眼鏡を処方され、視力訓練を受けられる学生の割合を40%(60%)に増やす

3. プライマリヘルスケア(一時医療)と疾病管理

(8)非感染性疾患に対する早期発見・管理
   19. 非感染性疾患の予防、管理、治療ができるコミューン※レベルの医療センターの割合を95%(100%)に増やす
   20. 高血圧の発見率を50%(70%)に上げる
   21. 高血圧の管理率を25%(40%以上)に上げる
   22. 糖尿病の発見率を50%(70%)に上げる
   23. 糖尿病の管理率を30%以上(40%以上)に上げる
   24. がん(乳がん、子宮頸がん、結腸直腸がん)のリスクがある人の早期発見の割合を40%(50%)に増やす
(9)地域の人々の健康のケアと管理
   25. コミュニティで健康が管理および監視される人々の割合を90%(95%)に増やす
(10)高齢者のヘルスケア
   26. 高齢者に医療を提供できるコミューン※レベルの医療センターの割合を100%(100%)に増やす
(11)労働者の健康ケア
   27. 一般的な職業病のリスクがある施設で働く従業員の職業病が発見される割合を50%(70%)に増やす
   28. 農業、林業、漁業、工芸村などの労働契約のない労働者のために基本的な健康管理活動を行っているコミューンヘルスステーション※の割合を50%(70%)に増やす

※コミューンとは、最小行政区のこと
 コミューンヘルスステーションとは、最小行政区にある保健医療機関のことを指します

ベトナムのデジタルによる健康管理

ベトナムの電子健康記録(EHR)システム

EHR(Electronic Health Record、電子健康記録)とは、医療施設を超えて診療情報の蓄積と利用をする仕組みのことを指します。特に匿名化したデータを研究、教育、公衆衛生などのために再利用できるようにするのが大きな特徴です。

ベトナムでは、保健省IT局が2019年に開発し、医療サービス局が主管部署として運用を開始しました。このシステムでは、各医療機関が保有する個人の電子健康記録(医療データや健康データ)がシステムに共有され、政府と省、市町村がまとめて一括管理するのが特徴です。2025年までに国民の95%の電子健康記録のデータを集めて、病院などの医療機関と共有する予定です。

ベトナムの電子健康手帳アプリ

ベトナムの電子健康手帳アプリは、2021年以降、コロナワクチンの予防接種予約および接種証明の目的で開発・利用されてきました。今後はさらに電子健康記録(EHR)システムと連携され、個人の健康情報の保存および管理と医療機関への診断予約機能が実装されるようです。

まとめ

ベトナムでは長期的な健康の促進に関する目標を掲げ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用したり、アプリを導入したりすることによって国民の健康を守ろうとしています。経済の発展や便利なサービスの登場によって国民の生活も豊かになり、健康状態が改善され平均寿命が伸びることを願っています。

その一方で、高齢化の問題や、システムの構築やクラウド化による個人情報の扱い方に関する課題も出てくるでしょう。これからのベトナムのヘルスケア分野における動向も興味深いものとなりそうです。

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Posted by Minh