未然に防ごう!起きてほしくない外国人就労者とのトラブルについて
厚生労働省の調査によると、国内の外国人就労者数は172万人(令和2年10月末時点)にも及び、過去最高を記録しました。また、これまでは中国籍の外国人が最も多かったのですが、今回の調査で初めてベトナム人が中国人を上回り最も多い外国人就労者に記録されています。
これは労働人口が減少している日本にとっては良いことである反面、異なる文化や習慣、宗教を持つ人々の流入はどうしても軋轢を生んでしまうものです。ここ数年、テレビなどでも雇用主と外国人就労者との間でのトラブルは頻繁に取りざたされています。
しかし、外国人就労者はそのほとんどが夢を実現させるため、あるいは家族を養うために日本へやってきています。当然のことながら、トラブルを起こしたくて起こしているわけではありません。
では、なぜお互いにトラブルを起こしたくないのにトラブルが起きるのか、そしてトラブルを防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。
今回は外国人就労者とのトラブルを未然に防ぐための方策を考えていきます。
コンテンツ一覧
どんなトラブルがあるのだろうか
待遇関連のトラブル
外国人就労者とのトラブルというと、外国人就労者側に問題があると考えられがちですが、実は企業側に問題があるケースもあります。その代表例が賃金や保険などといった労働待遇に関連するトラブルです。
- 最低賃金制度違反
- 賃金の未払い
- 社会保険の加入漏れ
- 外国人雇用状況届出書の提出漏れ
外国人雇用状況届出書について
「外国人雇用状況届出書」は企業が外国人労働者を新規採用したとき、あるいは離職時に提出しなければいけないものです。これは雇用主の義務であり、これを怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合には30万円以下の罰金が科されます。
外国人就労者の社会保険ついて
企業が法人の場合、外国人を雇用する際には厚生年金保険と健康保険に加入させる義務があります。また、個人事業主の場合にも、以下の14業種かつ常時5人以上の従業員を擁する事業所であれば加入させる義務があります。
- 製造業
- 物品販売業
- 清掃業
- 運送業
- 土木建築業
- 金融保険業
- 通信報道業
- 鉱業
- 電気ガス事業
- 集金案内広告業
- 保管賃貸業
- 医療保険業
- 教育研究調査業
時々、外国人就労者の方が「病気や怪我のために健康保険には入りますが、年金は払いたくないので厚生年金保険には入りたくありません」という主張をするケースがありますが、当然片方だけに加入するというようなことは出来ません。
就労時間に関するトラブル
外国人就労者に尋ねると「日本の会社は時間にルーズ」だと言います。日本人からするとむしろ日本の会社は時間に厳格だと感じるかと思いますが、サービス残業や過労死の問題があることを考えるとそうとも言い切れないのではないでしょうか。本来の規定の終業時間通りに帰宅している会社員はほとんどいないはずです。
こういった日本では当たり前となっている就労時間のルーズさが、外国人には受け入れられずにトラブルになることがあります。会社側からしてみれば「仕事を中途半端に終わらせて帰ってしまう非常識な人」かもしれませんが、外国人就労者側からしてみれば「時間を守らない非常識な会社」となってしまいます。
在留資格に関するトラブル
在留資格関連のトラブルもよく起きています。日本では外国人の不法就労を防止するために、外国人就労者の在留資格の有無を雇用主に義務づけています。これを怠って在留資格を持たない外国人を雇用した企業には「不法就労助長罪」が適用されることがあり、結果として大きな問題に発展してしまうケースもあるようです。
外国人就労者の逃亡
想像以上に仕事が辛い、言語や文化の違いによるホームシックなどが原因で逃げてしまう外国人就労者が後を絶ちません。技能実習生だけに限定してみても、毎年6,000人~8,000人ほどの外国人就労者が失踪しています。2019年時点のデータによれば、過去5年で3万5,000人を超える技能実習生が失踪しています。
そもそもの原因はどんなことだろう?
言語や文化の違いにより意思疎通が上手くできない
多くのトラブルの根本には言語や文化・習慣などの違いによって十分にコミュニケーションできていないことがあると考えられます。例えば遅刻問題。日本人の多くは「遅刻しないことは社会人として当然のこと」だと思っていますが、海外では5分や10分程度なら遅刻とは思わない国もあります。ですから「遅刻しないでください」と伝えても、日本人的な感覚とはかけ離れた意味で伝わる可能性があるということです。
我々にとっての非常識は、外国人にとっての常識かもしれません。日本の常識や考え方を理解してもらうのと同時に、私たちも相手の常識や考え方を学んで寄り添う姿勢が必要です。
また、単に言語的な問題も大きいでしょう。日本人が感覚的に普通に使っている簡単な表現が、外国人には非常に難しいことがあります。例えば「前」や「後」、「先」、「いいです」などは外国人にとって難しい表現の代表例です。「前を見る」を矢印で表現すると前方方向で「後ろを見る」のは後方方向ですが、「前日」を矢印で表現すると後方方向で「後日」は前方方向になります。日本人は文脈でこれらを無意識的に使い分けていますが、非ネイティブにとってはややこしく、即座に判断するのは困難です。これを理解せずに「会議の前にやっておいて」などと指示すると、「会議を終えてからやっておいて」と誤解されてしまうかもしれません。
日本語は同音異義語も多く、完璧に使いこなすのは難しい言語です。トラブルの大きな要因になっていると考えられるでしょう。
トラブルが起きない職場にするには?
大きなトラブルを起こさないためには、まず大前提として外国人就労者に関わる法制度をしっかりと理解・順守し、適切な契約書や就業規則を作ることです。そのうえで外国人が働きやすい環境を構築していくことが大切となります。前述したように日本語はややこしい部分も多いので、誤解が生じないような分かりやすく明確な言葉を使うことを心掛ける工夫をしたり、日本語習得の支援をしたりしましょう。特に日本独特の「暗黙の了解」「空気を読む」という考え方を押し付けるのはやめるべきです。
また、異国の地で何かと不安に感じることも多いはずですから、困ったときに相談できる窓口を用意したり、社員や上司に気軽に相談できる雰囲気を作り出すことも大切でしょう。
そして、もちろん労働に見合った賃金を用意することも大事です。
時には常識や習慣の違いから嫌な気分になることもあるかもしれませんが、そんな時には一歩立ち止まることのできる心構えを持っておきましょう。リップサービスでも「興味深い」と口にすると、それだけでも違います。こういった心構えを皆が持ってお互いに歩み寄れるようになれば、やがてトラブルが起きない職場になっていくはずです。
まとめ
近年、外国人就労者数が増えています。街中で外国人を見かけることも珍しくはなくなってきました。外国人が増えるのに合わせて、雇用主と外国人就労者との間でのトラブルも増えてきています。
しかし、トラブルは外国人・日本人ともに起こしたくて起こしているわけではありません。ですが、文化や習慣、常識、言語などの違いがあるゆえにトラブルは増え続けています。
相手への無理解を解消し、相手に寄り添うことのできる環境を整えることが、トラブルを減らし快適な仕事環境を作り上げるための第一歩となるはずです。その一歩を少しずつ進めていけば、いつか日本人も外国人も尊厳と喜びをもって笑顔で働ける環境を生み出すことができることでしょう。