
海外進出に必要なこと完全ガイド 計画策定と現地視察で成果を出すための秘訣
「ライバル会社が、海外進出を計画しているらしい。」「やはり、うちも海外進出するべきなんだろうか。」そんな風に考えている企業は、たくさんあります。
国内市場の成熟化やグローバル競争の激化を背景に、多くの日本企業にとって海外進出は、もはや特別な選択肢ではなく、持続的な成長を実現するための重要な経営戦略となっています。
しかし、その道のりは決して平坦ではなく、成功を収めるためには正しい手順と周到な準備が不可欠です。
この記事では、海外進出を検討している、あるいは担当になったビジネスマンの皆様に向けて、計画から実行、そして事業の成長まで、海外進出に必要なことの全貌を5つの必須ステップに分けて網羅的に解説します。
- 海外進出の目的設定と数値目標の立て方
- 市場調査と進出国選定の方法
- 資金計画とリスク管理の基本
- ローカライゼーションと現地パートナー連携の重要性
戦略の核となる「目的設定」

海外進出を検討する上で、全ての行動の土台となるのが「目的の明確化」です。
なぜ、多大なコストと労力をかけてまで海外市場を目指すのか。この問いに対する自社の答えが曖昧なままでは、プロジェクトは方向性を失い、困難に直面した際に適切な判断を下すことができません。
この最初のステップでは、関係者全員が同じゴールを共有し、一貫した戦略を推進するための羅針盤を創り上げます。
海外進出で達成したい目標を具体化する
まずは、海外進出によって何を達成したいのかを具体的に言語化しましょう。企業の状況によって目的は様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 売上拡大: 少子高齢化により縮小が見込まれる国内市場から、経済成長が著しい海外市場へ販路を広げ、新たな収益の柱を構築する。
- コスト削減: 人件費や原材料費が比較的安価な国・地域に生産拠点を移転し、製品のコスト競争力を高める。
- ブランド力向上: グローバル市場で事業を展開することで、企業の知名度とブランドイメージを向上させ、国内外での信頼性を高める。
- 人材確保: 国内では採用が難しい優秀な技術者や専門人材を、海外で確保する。
これらの目的を、「3年後に現地での売上比率を10%にする」「製造コストを現状から15%削減する」といった、具体的で測定可能な数値目標(KPI)にまで落とし込むことが、計画の精度を高める上で非常に重要です。
本当に海外進出が最善の選択か?
次に、設定した目標を達成するための手段として、「本当に海外進出が最善の選択肢なのか」を冷静に再検討します。
例えば、売上拡大が目的ならば、国内で未開拓の顧客層にアプローチしたり、ECサイトを強化したりする方法もあるかもしれません。コスト削減が目的ならば、国内工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上も選択肢の一つです。
海外進出には、カントリーリスクや為替変動リスクなど、国内事業にはない特有のリスクが伴います。他の選択肢と比較検討した上で、それでもなお海外進出が最も効果的であるという確信と社内での合意形成ができて初めて、次のステップへと進むべきです。
市場調査と進出先の選定

進出の目的が明確になったら、次は「どの国・地域でなら、その目的を最も効果的に達成できるか」を客観的なデータに基づいて見極める調査フェーズに移ります。漠然としたイメージや一部の情報だけで進出先を決定することは、失敗の最も大きな原因の一つです。多角的な視点から、自社にとって最適な市場を慎重に選定しましょう。
市場調査で調べるべき項目
進出候補国を評価するためには、以下のような項目について詳細な調査が必要です。
- 市場環境: その国の市場規模はどのくらいか、今後どの程度の成長が見込まれるか。自社の製品やサービスに対する潜在的な顧客ニーズは存在するか。現地の消費者の所得水準や消費動向はどうか。
- 競合環境: 現地にはどのような競合企業が存在するのか。地元の有力企業や、すでに進出している日系・外資系企業の強みと弱みは何か。その中で、自社が勝ち抜けるだけの優位性や差別化要因は何か。
- 文化・商習慣: 国民性や宗教、生活習慣など、現地の文化を深く理解することは不可欠です。また、商取引における慣習(支払条件、納期に対する考え方など)は日本と大きく異なる場合があります。
- 法規制・税制: 外国資本の参入に対する規制(外資規制)の有無、労働法の内容、法人税率や関税などの税制は、事業の収益性に直接影響します。専門家のアドバイスも得ながら、正確に把握する必要があります。
- インフラ状況: 特に製造業や物流が関わるビジネスの場合、インフラの整備状況は死活問題です。電力や水の供給は安定しているか、港湾や空港、道路網などの物流インフラはどのレベルにあるかを確認します。
情報収集の具体的な方法(国内調査と現地視察)
これらの情報を効率的に収集するためには、段階的なアプローチが有効です。
デスクリサーチ(国内での調査)
まずは、日本国内で収集できる情報を活用します。JETRO(日本貿易振興機構)や各国の政府機関が提供する統計データやレポートは、マクロ環境を把握する上で非常に信頼性が高い情報源です。
また、専門の調査会社に依頼して、特定の市場に関する詳細なレポートを作成してもらうことも可能です。
現地視察
デスクリサーチで候補国を2〜3カ国に絞り込んだら、必ず現地に足を運びましょう。データだけでは決して分からない、街の活気、人々の表情、店舗に並ぶ商品のラインナップなど、現地の「生の情報」を肌で感じることは、最終的な意思決定において極めて重要です。
可能であれば、現地の展示会に参加したり、将来パートナーになり得る企業と面談の機会を設けたりすると、より深い情報を得られます。
具体的な「事業計画の策定」

進出先の国が定まったら、いよいよ具体的なアクションプランである事業計画に落とし込むフェーズです。ここでは、戦略を具体的な「ヒト・モノ・カネ」の計画にブレークダウンし、誰が、何を、いつまでに、どのように実行するのかを詳細に設計します。この計画の精度が、プロジェクトの成否を大きく左右します。
進出形態の決定
自社の事業内容、経営体力、そしてリスク許容度に応じて、最適な進出形態を選択します。
- 輸出、ライセンス供与: 比較的小さな投資で始められるため、リスクを抑えて市場の反応を見たい場合に適しています。
- 販売代理店契約、フランチャイズ: 現地の販売網やブランド力を活用できるため、スピーディーな市場浸透が期待できます。信頼できるパートナーの選定が鍵となります。
- 現地法人設立、合弁事業: 現地のニーズに合わせた柔軟な事業運営が可能で、本格的な市場開拓を目指す場合に適しています。最も投資額が大きくなるため、慎重な判断が必要です。
資金計画と資金調達
海外進出には、想定以上の資金が必要になることが少なくありません。会社設立費用や設備投資といった初期投資に加え、事業が軌道に乗るまでの運転資金(人件費、賃料、マーケティング費用など)を、少なくとも1年分以上は見込んで精緻に算出します。
その上で、自己資金で賄うのか、政府系金融機関や民間銀行からの融資を活用するのか、あるいは補助金・助成金を申請するのか、具体的な資金調達の目処を立てます。
リスク管理計画
海外事業にリスクはつきものです。重要なのは、事前に想定されるリスクを洗い出し、それぞれに対する具体的な対応策を準備しておくことです。
- カントリーリスク: 政情不安や急な法改正に備え、現地の情報を常に収集する体制を整える。
- 為替リスク: 為替予約などを活用し、為替レートの急激な変動による損失を最小限に抑える。
- 法務リスク: 現地の法律に詳しい弁護士と顧問契約を結び、契約書作成やコンプライアンス体制の構築について助言を得る。
また、万が一事業が計画通りに進まなかった場合に備え、どのラインを下回ったら事業を縮小・撤退するのかという「撤退基準」をあらかじめ明確に設定しておくことも、健全なリスク管理には不可欠です。
人材育成とチーム編成
壮大な計画も、それを実行する「人」がいなければ絵に描いた餅に終わります。海外事業を誰が推進するのか、その体制を構築します。
海外に派遣する赴任者には、語学力はもちろんのこと、異なる文化や価値観を受け入れ、現地スタッフをまとめ上げるリーダーシップやマネジメント能力が求められます。
また、現地でどのような人材を、いつ、何人採用するのかという採用計画も具体化しておく必要があります。
実行とローカライゼーション

事業計画が承認されたら、いよいよ現地で事業を立ち上げる実行フェーズです。この段階で最も重要な心構えは、「日本での成功体験や常識をそのまま持ち込まない」ということです。
現地の市場で受け入れられ、持続的に成長するためには、事業のあらゆる側面を現地に最適化させる「ローカライゼーション」が成功の鍵を握ります。
法規制・商習慣への対応
まずは、現地の法律に則って事業基盤を整えます。現地法人の設立登記、事業に必要な許認可の取得、赴任者の就労ビザ申請など、行政手続きを確実に進めます。
これらの手続きは国によって複雑さが大きく異なるため、現地の法律事務所やコンサルティング会社のサポートを得ることが一般的です。
また、契約社会である海外では、口約束は意味を成しません。取引先とは必ず詳細な契約書を交わすなど、現地のビジネス習慣を理解し、遵守することがトラブルを未然に防ぎます。
信頼できる現地パートナーとの連携
自社だけですべてを賄うことは不可能です。事業を円滑に進めるためには、信頼できる現地の専門家やパートナーとの強力なネットワークが不可欠です。
法律問題は弁護士、会計・税務は会計士、物流はフォワーダー、販路開拓は販売代理店など、各分野のプロフェッショナルと良好な協力関係を築くことが、事業の安定と成長を加速させます。
製品・マーケティングのローカライゼーション
日本で大ヒットした製品が、そのまま海外で売れるとは限りません。現地の気候、ライフスタイル、消費者の嗜好に合わせて、製品の仕様やパッケージ、ネーミングを調整する必要があります。
また、価格設定も現地の所得水準や競合製品の価格を十分に考慮して決定します。広告宣伝活動においても、日本で効果的だった手法が通用するとは限りません。
現地の主要なメディア(テレビ、雑誌、SNSなど)や、消費者に影響力のあるインフルエンサーを起用するなど、現地の文化に根差したマーケティング戦略を展開します。
現地スタッフとの密なコミュニケーション
事業の最前線で活躍するのは、現地で採用した従業員です。彼らとの間に信頼関係を築き、自社の企業理念やビジョンを共有することが、組織の一体感を醸成し、強いチームを作る上で不可欠です。
定期的なミーティングはもちろん、日々の何気ない対話を通じて、彼らが感じている市場のリアルな声や課題に耳を傾け、それを事業運営に活かしていく姿勢が求められます。
継続的な改善と情報収集

現地での事業開始はゴールではなく、新たなスタートラインです。市場環境や顧客のニーズは絶えず変化します。一度作った計画に固執するのではなく、変化に柔軟に対応し、事業を継続的に改善していく活動が、長期的な成功には不可欠となります。
変化に対応するための柔軟な戦略修正
事業を始めると、計画通りに進まないことが必ず出てきます。「想定よりも売上が伸びない」「競合が新たなプロモーションを仕掛けてきた」など、様々な問題に直面するでしょう。
重要なのは、その現実から目をそらさず、原因を分析し、迅速に戦略や戦術を修正していくことです。定期的に事業の進捗をレビューし、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Act)のPDCAサイクルを回し続けることで、事業はより強く、逞しく成長していきます。
最新情報を掴むための情報収集体制
意思決定の質は、情報の質と量に比例します。現地の経済ニュースや業界動向、競合他社の新製品情報、関連する法改正の動きなど、自社の事業に影響を与えうる最新情報を常に収集し続ける仕組みを構築することが重要です。
現地の業界紙を購読したり、スタッフに情報収集を役割分担したり、現地の業界団体に加盟したりするなど、複数の情報チャネルを確保しておきましょう。
必要な専門家との継続的な連携
事業が拡大するにつれて、労務問題や税務調査、取引先とのトラブルなど、より複雑で専門的な課題に直面する可能性が高まります。
問題が発生してから慌てて専門家を探すのではなく、日頃から顧問弁護士や会計士と定期的にコミュニケーションを取り、いつでも相談できる関係を維持しておくことが、事業を守るための重要な備えとなります。
市場調査や現地視察のサポートはアットグローバルへ

海外進出の成功には、本記事で解説したような緻密な市場調査や、現地のリアルな情報を得るための視察が不可欠です。しかし、多くの企業様にとって、専門知識を持つ人材の確保や現地とのネットワーク構築は大きな課題となっています。
私たちアットグローバルは、そのような課題に対し、お客様一人ひとりのビジネスに寄り添う「伴走型」のコンサルティングで海外進出をサポートします。
20年以上にわたる実績とグローバルな専門家ネットワークを活かし、市場調査や現地視察のアレンジはもちろん、信頼できるパートナー探し、各種翻訳・通訳までワンストップで対応いたします。
海外進出への第一歩は、信頼できるパートナー選びから始まります。ぜひ一度、アットグローバルにご相談ください。
よくある質問(Q&A)
- 海外進出にかかる費用は、具体的にどれくらい見込んでおけばよいのでしょうか?
海外進出の費用は、国や事業規模、進出形態によって数百万から数億円単位まで大きく変動するため、一概には言えません。
費用の内訳は、初期費用と運転資金に大別されます。初期費用には、法人設立・登記費用、許認可取得費、弁護士など専門家への報酬、市場調査費、事務所や店舗の保証金・内装工事費などが含まれます。これだけで数百万円以上かかることが一般的です。
運転資金は、事業が黒字化するまでの間の人件費、賃料、広告宣伝費、仕入れ費用などです。特に人件費と賃料は大きな割合を占めるため、最低でも6ヶ月分から1年分は確保しておくことが推奨されます。
- 外進出を決定してから、実際に現地で事業を開始するまで、どのくらいの期間がかかりますか?
進出先の国や事業内容によって異なりますが、一般的には意思決定から事業開始まで半年から1年半程度の期間を見込むのが現実的です。
この期間は、大きく3つのフェーズに分けられます。
- 計画・調査フェーズ(3〜6ヶ月): 詳細な市場調査、事業計画の策生、社内での最終承認。
- 設立・準備フェーズ(3〜6ヶ月): 現地法人の設立登記、銀行口座の開設、就労ビザの申請、オフィスの契約。このフェーズは現地の行政手続きのスピードに大きく左右され、想定以上に時間がかかることもあります。
- 操業準備フェーズ(1〜3ヶ月): 現地スタッフの採用、初期のマーケティング活動、サプライヤーとの契約など。
- 現地法人のトップは、日本から駐在員を派遣するべきですか?それとも現地の優秀な人材を雇用するべきですか?
これは海外進出における重要な経営判断であり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
日本人駐在員を派遣する場合は、本社との意思疎通がスムーズで、企業理念や経営方針を正確に現地に浸透させやすいという利点があります。一方で、現地の商習慣や市場への理解が浅い、人件費が高コストになるといった課題も指摘されます。
現地人材を雇用する場合は、現地の市場や文化を深く理解しており、豊富な人脈を活用できる点が最大の魅力です。しかし、本社との文化的なギャップから方針の食い違いが生じるリスクも考えられます。
理想的なのは、設立初期は日本人駐在員が事業の基盤を築き、その間に現地採用の幹部を育成し、将来的に経営を委譲していくというハイブリッドな形です。
- 国や地方自治体などが提供している、海外進出に活用できる補助金や助成金はありますか?
はい、国や地方自治体などが提供する多様な支援制度が存在します。
代表的なものとして、JETRO(日本貿易振興機構)が提供する専門家によるコンサルティングやビジネスマッチング支援があります。直接的な資金援助ではありませんが、情報収集や販路開拓のコストを大幅に削減できます。
資金調達の面では、日本政策金融公庫(JFC)が「海外展開・事業再編資金」といった融資制度を設けています。また、各都道府県や市町村でも、地元企業の海外展開を支援するための独自の補助金や助成金制度を用意している場合があります。
- 海外で自社のブランド(商標)や技術(特許)を守るには、どのような対策が必要ですか?
知的財産権は、権利を取得した国でしか効力が及ばない「属地主義」が原則です。日本で商標や特許を持っていても、海外では保護されません。そのため、進出先の国で改めて権利を取得することが絶対条件です。
商標は、現地の言葉や文化でネガティブな意味にならないかを確認した上で、事業開始前に必ず出願・登録を済ませてください。怠ると、第三者に先取りされ、ブランド名が使えなくなるリスクがあります。
特許も同様に進出先での出願が必要です。複数の国で権利化を目指す場合は、国際出願制度であるPCT出願を活用すると手続きの負担を軽減できます。
- 大企業でなくても、中小企業が海外進出を成功させるためのポイントはありますか?
資金や人材が限られる中小企業こそ、大企業にはない「スピード感」と「ニッチ戦略」を活かすことが成功の鍵です。
まず、いきなり大規模な投資をするのではなく、低リスクな方法で市場の反応をテストすることが重要です。例えば、現地に代理店を見つけて販売を委託する、あるいは越境ECで商品を販売し、どの国で需要があるかを見極める方法が有効です。現地の展示会への出展も、低コストでバイヤーや顧客の生の声を聴ける絶好の機会となります。
海外進出に必要なことまとめ
- 海外進出の目的を明確に設定し、数値目標に落とし込むこと
- 国内施策との比較検討を行い、本当に海外進出が最善かを確認すること
- 市場規模や競合状況、文化や商習慣を含めた徹底的な市場調査を行うこと
- 候補国を絞った上で必ず現地視察を行い、生の情報を把握すること
- 自社に適した進出形態(輸出・代理店契約・現地法人設立など)を選定すること
- 初期投資と運転資金を見積もり、融資や補助金を含めた資金計画を立てること
- カントリーリスクや為替変動に備えたリスク管理体制を整えること
- 製品やマーケティングを現地の文化・嗜好に合わせてローカライズすること
- 信頼できる現地パートナーや専門家と連携し、継続的に情報収集と改善を行うこと