
海外市場調査の完全ガイド|プロが教える手法・費用・事例と会社の選び方
日本の国内市場が成熟し、多くの企業にとって海外市場への進出が事業成長の生命線となりつつあります。海外展開は喫緊の課題であり、その成功に向けて日々奮闘されていることでしょう。
しかし、文化、言語、商習慣が全く異なる海外で、確かな手応えのないままビジネスを進めることには、大きなリスクが伴います。
成功を収めているグローバル企業が、例外なく巨額の投資を行っているのが「海外市場調査」です。それは、客観的なデータこそが、未知の市場を航海するための、唯一信頼できる羅針盤であることを知っているからです。
この記事では、数多くの企業の海外進出をご支援してきたプロの視点から、海外市場調査の必要性から具体的な調査手法、成功に導くためのステップ、そして最も重要な「信頼できる調査会社の選び方」とその費用相場まで、海外事業担当者様が本当に知りたい情報を網羅的に解説します。
- 海外市場調査の重要性
- 海外市場調査の具体的な手法
- 海外市場調査の実施手順
- 海外市場調査会社の選び方と費用相場
なぜ海外市場調査が不可欠なのか?事業成功を左右する6つの理由

「調査に時間とコストをかけるより、まずは商品を投入して市場の反応を見たい」という声も聞かれます。しかし、この「とりあえず進出」というアプローチが、後に莫大な損失を生むケースを私たちは数多く見てきました。なぜ、事前の市場調査がそれほどまでに重要なのでしょうか。その理由を6つの観点から深く解説します。
1. 顧客ニーズを把握するため
海外進出における最も基本的な、そして最も陥りやすい失敗は「日本で売れたものは海外でも売れるだろう」という思い込みです。
例えば、日本では「しっとり」という使用感が好まれる化粧水も、高温多湿な東南アジアでは「さっぱり」「ベタつかない」ことが最優先されるかもしれません。
また、健康志向の高まりという同じトレンドでも、欧米では「オーガニック」「プロテイン含有量」が重視される一方、アジアでは「伝統的なハーブ」「美白効果」がキーワードになるなど、その需要は国によって全く異なります。
顧客ニーズの把握とは、単に好みを探るだけではありません。現地の消費者がどのような生活課題を抱え、どのようなシーンで製品を使い、製品のどこに価値を感じて対価を払うのか、そのインサイト(深層心理)を深く理解するプロセスです。この理解なくして、現地の消費者の心に響く製品開発やマーケティングは不可能です。
2. 市場規模を分析するため
情熱を持って開発した製品も、そもそもその製品を求める顧客が存在しない、あるいは市場が極端に小さければ、ビジネスとして成立しません。市場規模の分析は、進出を検討している市場が、投資に見合うだけの「事業機会」があるかどうかを客観的に評価するために不可欠です。
分析すべきは、現在の市場規模(顕在市場)だけではありません。今後どれくらいの成長が見込まれるのか(成長性)、関連市場や代替品の動向はどうなっているか、そして法改正や技術革新によって将来的に生まれる可能性のある新たな市場(潜在市場)までを視野に入れる必要があります。
例えば、ある国で環境規制が強化されるという情報があれば、それはエコフレンドリーな製品にとって巨大なビジネスチャンスの到来を意味するかもしれません。こうしたマクロな視点での分析が、的確な経営判断の土台となります。
3. 競合他社の状況を分析するため
どのような有望な市場にも、必ず先駆者である競合が存在します。彼らは、現地でどのようなポジションを築いているでしょうか。
ハイエンドな価格帯でブランドイメージを確立しているのか、それとも低価格と物量で市場を席巻しているのか。彼らの製品ラインナップ、価格戦略、販売チャネル、プロモーション活動を徹底的に分析することで、自社が参入する「隙間」を見つけ出すことができます。
また、競合の弱みを分析することも重要です。「デザインは良いが、機能性に不満を持つ顧客が多い」「アフターサービスへの評価が低い」といった競合の弱点は、そのまま自社の強みを発揮できるチャンスとなります。
競合分析とは、敵を知り、己を知ることで、百戦殆うからずの状況を作り出すための戦略的な情報収集活動なのです。
4. 文化や習慣の違いに対応するため
製品やサービスそのものだけでなく、その提供方法も現地の文化や習慣に合わせる必要があります。
例えば、日本では当たり前の「お辞儀をする店員」が、国によっては「卑屈に見える」「不自然だ」と受け取られることがあります。
また、製品パッケージの色一つとっても、西洋で「死」や「不吉」を連想させる黒色が、ある国では「高級感」「力強さ」の象徴であったり、緑色が特定の宗教や政党を強く想起させるため使用がためらわれたりします。
ビジネス交渉の進め方、時間に対する考え方、贈答の習慣など、ビジネスのあらゆる側面に文化は影響を及ぼします。こうした文化的なコンテキスト(文脈)を無視した行動は、無意識のうちに相手に不快感を与え、商談を破談に追い込むことさえあるのです。
文化への理解と尊重は、海外で長期的にビジネスを続けるための必須条件と言えるでしょう。
5. 規制・法律の確認のため
海外ビジネスにおける最大のリスクの一つが、法規制への対応です。
特に、製品の安全性に関わる規制は年々厳格化しており、食品、化粧品、医薬品、電気製品などは、国ごとに非常に複雑な許認可プロセスや成分規制、表示義務が定められています。これをクリアできなければ、製品を輸入・販売することすらできません。
また、個人情報保護法(EUのGDPRなど)、労働法、景品表示法、知的財産権に関する法制度など、事業活動のあらゆる側面が法律によって規律されています。
知らなかったでは済まされず、違反した場合には、製品回収や多額の罰金、ブランドイメージの失墜、さらには事業停止命令といった深刻な事態に発展する可能性があります。法務リスクの事前確認は、ビジネスを守るための最低限の防衛策です。
6. 販売チャネルを評価するため
どれほど優れた製品を開発しても、それが顧客の手元に届かなければ意味がありません。製品を消費者に届けるための経路(販売チャネル)の選定は、売上を左右する極めて重要な戦略的意思決定です。
例えば、北米ではウォルマートのような巨大スーパーマーケットやAmazonのようなECプラットフォームが絶大な力を持っていますが、東南アジアでは今なお地域のパパママストア(個人商店)やウェットマーケット(生鮮市場)が人々の生活に根付いています。
また、中間流通を担う卸売業者や代理店の力関係も国によって大きく異なります。現地の流通構造を正確に理解し、自社の製品特性やターゲット顧客に最も適した販売チャネルを構築・評価することが、海外展開の成否を分けるのです。
海外市場調査の主な手法とは?目的別の選び方ガイド

海外市場調査には様々な手法が存在し、それぞれに得意なこと、不得意なことがあります。調査の目的やフェーズに応じて、これらの手法を適切に組み合わせることが、費用対効果の高い調査を実現する鍵となります。
まずは低コストで情報収集【デスクリサーチ(二次調査)】
デスクリサーチは、既存の公開情報を収集・分析する、いわば「机上調査」です。本格的な現地調査に入る前の、情報収集の第一歩として位置づけられます。
- 目的: 市場の全体像(マクロ環境、市場規模、成長率、法規制など)を短期間かつ低コストで把握する。
- 主な情報源:
- 各国政府や公的機関(JETRO、世界銀行など)の統計データ
- 業界団体やシンクタンクが発行する市場レポート
- 現地の新聞、ビジネス誌、専門メディアの記事
- 競合他社のウェブサイト、年次報告書(IR情報)、プレスリリース
- メリット: 低コスト、短期間で実施可能、広範な情報を網羅できる。
- デメリット: 情報が古い場合がある、自社が知りたいピンポイントな情報が見つからない、情報の信頼性の見極めが必要。
- 活用場面: 事業計画の初期段階における、市場の魅力度評価や参入候補国のスクリーニング。
現地の”生の声”を聞く【フィールドリサーチ(一次調査)】
フィールドリサーチは、デスクリサーチで立てた仮説を検証したり、より深いインサイトを得るために、新たに現地で独自の情報を収集する調査です。文字通り「現地」に赴いて情報を集めるため、より具体的でリアルな情報が得られます。
数値で市場を把握する「定量調査」の種類と特徴
定量調査は、主にアンケートを用いて、市場の実態を「数値」で客観的に把握するための手法です。「何人が」「何パーセントが」といった量的なデータを集め、統計的に分析します。
- Webアンケート調査: 現代の主流な手法。現地の調査会社が保有する消費者パネルに対してオンラインでアンケートを配信する。低コストで数千人規模の大規模なサンプルを迅速に集めることが可能。
- 街頭調査(CLT: Central Location Test): 特定の会場や街頭で対象者を集め、製品の試用・試食・試飲を伴うアンケートを実施する。新製品の受容性評価などに有効。
- 郵送調査: インターネットにアクセスしにくい高齢者層などを対象とする場合に有効だが、時間とコストがかかる。
- メリット: 市場全体の構造や割合を客観的な数値で示せる、統計的な分析が可能で説得力が高い。
- デメリット: 「なぜそう思うのか」という理由や背景までは深掘りしにくい、調査票の設計や翻訳の質が結果を大きく左右する。
背景や理由を深掘りする「定性調査」の種類と特徴
定性調査は、インタビューなどを通じて、数値では表せない個人の意見や感情、行動の背景にある「なぜ?」を深く理解するための手法です。
- デプスインタビュー(IDI: In-depth Interview): 調査員と対象者が1対1で30分~1時間半程度、深く対話する手法。個人的で込み入ったテーマ(金融、健康など)や、専門家へのヒアリングに適している。
- グループインタビュー(FGI: Focus Group Interview): 6~8名程度の対象者を集め、モデレーター(司会者)の進行のもとで特定のテーマについて自由に話し合ってもらう座談会形式の手法。参加者同士の相互作用により、多様な意見や思いがけないアイデアが生まれやすい。新製品のコンセプト評価や広告クリエイティブの評価などに多用される。
- 訪問観察調査(エスノグラフィ): 対象者の自宅や職場などを実際に訪問し、普段の生活の中で製品がどのように使われているか、あるいはどのような不満や課題があるかを観察する。対象者自身も意識していない無意識の行動や隠れたニーズを発見できる可能性がある。
- メリット: 消費者の本音やインサイトを深掘りできる、新たな仮説の発見に繋がる。
- デメリット: 少数のサンプルに基づくため、結果を市場全体の意見として一般化することはできない、調査員のスキルに結果が左右されやすい。
【最新トレンド】オンライン調査とソーシャルリスニングの活用
テクノロジーの進化は調査手法にも大きな影響を与えています。特にCOVID-19を経て、オンラインでの調査は完全に定着しました。
デプスインタビューやグループインタビューも、今やZoomなどのビデオ会議システムを通じて、日本にいながら世界中の消費者と繋がることが可能です。これにより、渡航コストや時間を大幅に削減できるようになりました。
さらに、「ソーシャルリスニング」も極めて強力なツールとなっています。これは、X(旧Twitter)やInstagram、FacebookといったSNSや、現地の巨大掲示板、レビューサイト上での消費者の自然な会話や投稿を専用ツールで収集・分析する手法です。
企業が「質問」する調査とは異なり、消費者が自発的に発信するフィルターのかかっていない「本音」を大量に把握できるため、ブランドイメージの測定や、製品改善点の発見、新たなトレンドの兆候を掴む上で非常に有効です。
失敗しないための海外市場調査|基本の5ステップ

質の高いインサイトを得るためには、場当たり的に調査を行うのではなく、しっかりとした計画に基づいてプロセスを進めることが不可欠です。ここでは、海外市場調査を成功に導くための王道とも言える5つのステップを、担当者様が注意すべきポイントと共に解説します。
STEP1:目的の明確化と仮説設定「何を何のために調べるか」
すべての始まりは、このステップにあります。ここが曖昧なまま進むと、調査結果が出ても「で、結局どうすればいいんだ?」という状態に陥ってしまいます。
まず、貴社が直面している「ビジネス上の課題」を明確にしてください。「東南アジアでの売上が伸び悩んでいる」「欧州市場に新規参入したいが、足がかりがない」などです。
次に、その課題を解決するために「何が分かれば意思決定できるか」を考え、それを「調査目的」として設定します。例えば、「売上伸び悩みの原因が、価格にあるのか、製品品質にあるのか、プロモーションにあるのかを特定する」といった具体的なものです。
そして最後に、その目的に対する「仮説」を立てます。「おそらく、競合製品に比べて価格が高いことが最大の要因ではないか?」「いや、ブランドの認知度が低すぎることが問題かもしれない」といった仮説です。この仮説を検証するために、後の調査が存在するのです。
このステップは、できれば社内の営業、マーケティング、開発など、複数の部署のメンバーで議論することをお勧めします。
STEP2:調査企画・設計「誰に、どこで、どうやって聞くか」
目的と仮説が固まったら、それを検証するための具体的な調査計画、いわば「調査の設計図」を作成します。ここでリサーチ会社と緊密に連携することが成功の鍵です。
- 調査対象国・地域: 国全体なのか、特定の都市部(例:ジャカルタ、ホーチミン)に絞るのか。
- 調査対象者(リクルーティング条件): 年齢、性別、世帯年収といったデモグラフィック情報に加え、「過去半年以内に競合A社の製品を購入した人」「週に3回以上、自炊をする人」など、調査目的に合わせて具体的な条件を設定します。この条件設定が甘いと、見当違いの対象者を集めてしまい、全く意味のない調査になってしまいます。
- 調査手法の選定: STEP1で立てた仮説を検証するために、定量調査が適切か、定性調査が必要か、あるいは両方を組み合わせるべきかを決定します。
- サンプルサイズ: 何人から回答を得るか。定量調査では統計的な信頼性を担保するために最低でも数百サンプル、定性調査では1グループ6~8人、インタビューなら8~12人程度が一般的です。
- スケジュールと予算: いつまでに調査を完了させ、報告が必要か。かけられる予算はいくらか。これらをリサーチ会社に伝え、実現可能なプランを共に策定します。
STEP3:実地調査の実行
設計図が完成したら、いよいよ実地調査に移ります。ここでの品質管理が、調査結果の信頼性を直接左右します。
- 調査票・インタビューガイドの作成: 調査の目的と仮説に沿って、具体的な質問項目を作成します。質問の順序、言葉の選び方一つで回答は大きく変わるため、専門的なノウハウが求められます。特に、誘導的な質問(例:「この素晴らしい製品についてどう思いますか?」)は絶対に避けなければなりません。
- 翻訳と文化的なチェック(カルチャライズ): 作成した調査票やガイドを、現地の言語にただ翻訳するだけでは不十分です。現地の文化的な背景を踏まえ、失礼な表現や誤解を招く言葉がないか、ネイティブの専門家が厳しくチェックする「カルチャライズ」というプロセスが不可欠です。例えば、収入に関する質問は、国によっては非常にデリケートで、直接的な聞き方をすると回答を拒否されることがあります。
- 調査の実施と管理: 現地の調査員が設計通りに調査を実施しているか、品質を管理・監督します。
STEP4:データの集計と分析「事実に意味を見出す」
調査で集まったデータは、まだ単なる「素材」に過ぎません。この素材を調理し、ビジネスに役立つ「料理」に仕上げるのが分析のフェーズです。
- データクリーニング: アンケートの回答データの中から、矛盾した回答や明らかに不誠実な回答(例:すべての質問に同じ選択肢で回答)などを取り除き、データの信頼性を高めます。
- 集計とグラフ化: 単純集計(全体の%)だけでなく、年齢別、性別、地域別などでクロス集計を行い、属性ごとの違いを明らかにします。これをグラフや表にすることで、データの傾向を直感的に理解できるようになります。
- 定性データの分析: インタビューの発言録を読み込み、キーワードや重要な発言を抽出し、それらを意味の近いもの同士でグループ化(コーディング)していきます。これにより、断片的だった個人の意見の中から、共通する価値観やインサイトを見つけ出すことができます。
- インサイトの抽出: 分析結果から、「だから何が言えるのか(So What?)」を考え抜きます。「A製品の満足度が低い」という事実だけでなく、「なぜなら、彼らはパッケージの開けにくさに日常的なストレスを感じているからだ」といった、行動の裏にあるインサイトまでを導き出すことがゴールです。
STEP5:レポーティングと戦略への落とし込み
調査プロセスの最終アウトプットが報告書(レポート)です。優れたレポートは、次のアクションに直結するものでなければなりません。
- 報告書の構成: エグゼクティブサマリー(要約)、調査の背景と目的、調査設計、分析結果、そして結論と提言、という構成が一般的です。
- 「ファクト」と「インサイト」の区別: レポートでは、調査で明らかになった客観的な事実(ファクト)と、そこから導き出される分析者の解釈や洞察(インサイト)、そして具体的な打ち手(提言)を明確に区別して記述することが重要です。
- 戦略への活用: レポートは、棚に飾っておくためのものではありません。報告会などを通じて社内の関係者と結果を共有し、「この結果を踏まえて、製品Bの改良に着手しよう」「来期のマーケティング戦略は、価格訴求から機能性訴求に切り替えよう」といった、具体的なアクションプランに繋げて初めて、調査への投資が実を結ぶのです。
海外市場調査は外注すべき?専門会社の選び方と費用相場

これまでのプロセスをご覧いただいてお分かりの通り、質の高い海外市場調査をすべて自社で完結させるのは、専門知識、語学力、現地ネットワークの観点から、極めて困難です。だからこそ、多くの企業が私たちのような専門のリサーチ会社に調査を外注します。ここでは、貴社の成功を左右するパートナー選びのポイントと、気になる費用感を解説します。
自社に合うリサーチ会社の選び方|5つの比較ポイント
リサーチ会社と一口に言っても、その規模や得意分野は様々です。見積もり金額の安さだけで選ぶと、質の低い調査結果に繋がり、かえって高くつくことになりかねません。以下の5つのポイントを総合的に評価し、信頼できるパートナーを見つけましょう。
調査実績と専門性
最も重要なポイントです。貴社が対象としたい国・地域、そして業界(例:BtoC消費財、BtoBの産業機械、医療・ヘルスケアなど)での調査実績が豊富かどうかを必ず確認してください。
ウェブサイトの実績紹介ページを見るだけでなく、「御社で過去に〇〇国向けの〇〇業界の調査を手がけた事例があれば、差し支えない範囲で教えていただけますか?」と具体的に質問してみましょう。
提案力と課題解決能力
貴社から言われたことをそのまま実行するだけの会社は「業者」です。
優れた「パートナー」は、貴社が抱えるビジネス課題を深く理解した上で、「その課題を解決するためには、こういう調査手法の方がより効果的ではないでしょうか」「この質問項目を追加すれば、より深いインサイトが得られる可能性があります」といった、専門家としての付加価値の高い提案をしてくれます。
分析力とレポーティングの質
最終的なアウトプットであるレポートの質は、会社の能力を最もよく表します。可能であれば、過去に作成したレポートのサンプル(匿名化されたもの)を見せてもらいましょう。
ただデータを羅列しただけのレポートか、それともビジネスの意思決定に繋がるような鋭い洞察や提言まで含まれているか、その違いは一目瞭然です。
現地ネットワークと品質管理体制
現地での調査は、現地のパートナー企業や調査員が実施することがほとんどです。その現地のパートナーをいかに管理し、調査の品質を担保しているかが問われます。
どのような基準で現地のパートナーを選んでいるのか、調査員へのトレーニングはどのように行っているのか、といった品質管理体制について確認しましょう。
コミュニケーションの円滑さと担当者の質
調査プロジェクトは数週間にわたって続く共同作業です。担当者が貴社の意図を正確に汲み取り、迅速かつ丁寧なコミュニケーションを取ってくれるかは、プロジェクトをスムーズに進める上で非常に重要です。
質問への回答が的確か、専門用語を分かりやすく説明してくれるか、そして何よりも貴社のビジネス成功に情熱を持ってくれるか、打ち合わせを通じてその「人」を見極めてください。
気になる費用相場は?調査内容別の料金目安
海外市場調査の費用は、対象国(物価)、調査手法、対象者の出現率(見つけやすさ)、サンプルサイズ、質問数など、様々な要因で大きく変動します。あくまで一般的な目安として、企画設計から実査、集計分析、レポーティングまでを含んだ一式(フルサービス)の料金例を以下に示します。
調査手法 | 費用目安 | 内容・備考 |
デスクリサーチ | 30万円~150万円程度 | 調査国数やレポートのボリュームで変動します。特定の業界動向や規制に関する詳細なレポートは高額になる傾向があります。 |
Webアンケート調査 | 80万円~300万円程度 | 1カ国、10~15問、1000サンプルを想定。対象者の出現率が低い(例:特定の高所得者層など)場合はリクルーティング費用が高騰します。 |
グループインタビュー | 150万円~400万円程度 | 1カ国、2グループ(計12名)を想定。対象者のリクルーティング費、謝礼、会場費、通訳費、発言録作成費などが含まれます。 |
デプスインタビュー | 200万円~500万円程度 | 1カ国、8~12名を想定。企業の役職者や医師など、専門家へのインタビューは謝礼が高額になるため、全体の費用も上がります。 |
これらの費用はあくまで一例です。必ず複数の会社から、同じ要件で見積もりを取得し、その内訳(何が含まれていて、何がオプションなのか)を詳細に比較検討することをお勧めします。
事例から学ぶ、海外市場調査の成功と失敗の分かれ道

調査がビジネスの成果にどう結びつくのか、具体的な事例から見ていきましょう。
【成功事例】事前の綿密な調査がヒット商品を生んだ食品メーカーA社
背景・課題: 日本の食品メーカーA社は、成長著しい東南アジア市場にスナック菓子で参入を計画。経営陣は、日本で長年愛されている看板商品の塩味をそのまま展開すれば、日本のブランド力で成功できると考えていた。
調査と発見: しかし、マーケティング担当者は現地の嗜好が日本と異なる可能性を懸念し、グループインタビューを実施。すると、「日常的にスパイシーで濃厚な味付けに親しんでいるため、日本の塩味は物足りなく感じる」「一人で食べるより、家族や友人とシェアする文化が根付いているため、大袋よりも分けやすい個包装が好まれる」といった、想定とは全く異なるインサイトが次々と明らかになった。
結果と教訓: A社はこの調査結果に基づき、経営陣を説得。急遽方針を転換し、現地の香辛料を使った甘辛いチリフレーバーを開発し、パッケージもシェアしやすい個包装タイプに変更して発売。この現地最適化された製品は消費者の心を掴み、発売直後から大ヒット。A社は同市場での確固たる地位を築くことに成功した。この事例は、調査が「思い込み」を覆し、正しい戦略へと導く力を持つことを示している。
【失敗事例】国内の成功体験に固執し撤退を余儀なくされたアパレルB社
背景・課題: 国内で、シンプルかつ高品質なデザインで成功を収めていたアパレルメーカーB社は、満を持してファッションの本場であるヨーロッパ市場に進出。事前の調査は行わず、「本物であれば世界で通用する」という強い自信だけを頼りに、日本と同じデザイン・サイズ展開の店舗をオープンした。
調査と発見(の欠如): 彼らは調査を行わなかったため、現地の女性の平均的な体型が日本人とは異なり、特に胸やヒップのサイズがフィットしないこと、また、消費者がファッションに求めるものが「調和」よりも「自己表現」であり、より大胆な色使いや個性的なデザインが好まれることを知らなかった。
結果と教訓: 店舗を訪れた客からは「デザインは素敵だけど、サイズが合わない」「少し地味すぎる」という声が相次ぎ、売上は全く振るわなかった。結果、B社は多額の投資を回収できないまま、わずか2年で同市場からの撤退を決定。ブランドイメージにも傷がついた。この悲劇は、過去の成功体験が、未知の市場においては最も危険な「思考の罠」になりうることを教えてくれる。
このように、海外市場調査をしっかりと実施することは、海外進出を成功させるために非常に重要であることが理解できたと思います。とはいえ、たくさんある海外調査会社の中で、どこを選べばいいのでしょうか?手前味噌ながら、弊社アットグローバルがお勧めです。
なぜ海外市場調査はアットグローバルなのか?

数あるリサーチ会社の中から、なぜアットグローバルが多くの企業様に選ばれ、信頼されているのか。それには、他社にはない明確な理由があります。
理由1:高品質な「言語」の壁を越える翻訳力
海外調査の成否は、現地の言語をいかに正確に、そして文化的なニュアンスを汲み取って扱えるかに大きく左右されます。不正確な翻訳の調査票は、誤ったデータを生み、誤った経営判断へと繋がります。
アットグローバルは、1,000以上の企業・官公庁様から長年信頼されてきた多言語翻訳のプロフェッショナル集団です。
調査票やインタビューガイドの翻訳から、現地の自由回答や発言録の日本語訳まで、AI翻訳では決して到達できない、文脈を理解した高品質な「言語対応」で、貴社の調査の精度を根幹から支えます。
理由2:調査と翻訳のワンストップによる圧倒的なコストパフォーマンス
通常、海外調査を行う場合、「リサーチ会社」と「翻訳会社」へ別々に依頼する必要があり、コミュニケーションコストと費用が二重にかかるのが一般的でした。
アットグローバルは、この業界の非効率を解消します。60以上の国・地域をカバーするグローバルなリサーチネットワークと、社内に抱える翻訳の専門性をワンストップでご提供。また弊社の調査員は、実際に現地に住む日本人ですので、要望を日本語でお伝えいただくことができます。
これにより、海外調査に必ず付きものである翻訳・通訳コストと管理の手間を大幅に削減し、高品質かつ優れたコストパフォーマンスを実現します。
理由3:お客様のビジネス成功にコミットする伴走力
私たちは、調査データを納品して終わり、という単なる「業者」ではありません。貴社が抱えるビジネス課題や事業のゴールを深く共有し、その達成のために最適な調査プランを共に考え、実行する「パートナー」です。
豊富な知見を持つコンサルタントが、企画段階の壁打ちから、分析、レポーティング、そしてその先の戦略立案のディスカッションまで、貴社の海外ビジネス成功というゴールまで、責任を持って伴走します。

よくある質問(Q&A)
- 海外市場調査を依頼した場合の一般的な期間は?
調査の規模や内容によって大きく変動しますが、一般的にご相談から最終レポートの納品まで1.5ヶ月~3ヶ月程度が目安です。
内訳としては、①調査目的のヒアリングと企画提案・お見積もりに1~2週間、②調査票やインタビューガイドの設計・翻訳に1~2週間、③現地での実地調査(アンケート配信やインタビュー実施)に2~4週間、④データの集計・分析とレポーティングに2~3週間、というのが標準的な流れです。
対象者の見つけやすさ(出現率)や調査対象国の特性によって期間は前後するため、初期段階で調査会社と綿密なスケジュール調整を行うことが重要です。
- 調査対象国の選び方(スクリーニング方法)は?
まずは広く候補国をリストアップし、客観的なデータに基づいて段階的に絞り込む「多段階スクリーニング」が一般的です。
第1段階では、JETROや各省庁が公開しているマクロデータを用い、複数の国を比較評価します。主な評価軸は「市場規模・成長性(人口、GDPなど)」「政治・経済の安定性(カントリーリスク)」「法規制や関税」です。
第2段階で、上位に残った数カ国に絞り、より具体的な「自社製品との親和性」「競合の状況」「流通構造」などをデスクリサーチで深掘りします。これらの客観的評価に基づき、最も有望な国を最初の調査対象として選定します。
- 海外でのアンケート調査と個人情報保護法(GDPRなど)への対応は?
GDPRなどの個人情報保護法への対応は極めて重要です。まず、調査対象者から「明確な同意」を得ることが必須となります。
具体的には、調査目的、収集するデータ項目、データ管理者、保存期間などを明記したプライバシーポリシーを提示し、内容を理解した上で能動的に(チェックボックスなどで)同意してもらう必要があります。
また、「データ最小化の原則」に基づき、調査に不要な個人情報は収集してはいけません。各国の法律は複雑で要件も異なるため、自社だけで判断せず、現地の法規制に詳しい専門の調査会社や弁護士に相談し、適切な手順を踏むことが最も安全かつ確実な方法です。
海外市場調査まとめ
- 海外市場では日本と異なる顧客ニーズを事前に把握する必要がある
- 市場規模と成長性を分析し、投資判断の材料とする
- 競合他社の戦略と弱点を徹底的に調査し、自社の差別化ポイントを見つける
- 文化や習慣の違いを理解し、現地に適応したマーケティングを行う
- 法規制や許認可の確認を怠ると、事業リスクが高まる
- 最適な販売チャネルを構築しないと製品は消費者に届かない
- 調査は「デスクリサーチ」と「フィールドリサーチ」を使い分ける
- 質の高い海外調査には翻訳と文化理解を兼ね備えたパートナーが重要